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書評 2010.09

小さな会社は人事評価制度で人を育てなさい!

 評価制度を導入したものの,運用が煩わしくなったり,うまく機能しなくなったりして事実上,止めてしまった中小企業は少なくない。組織は何となく年功で落ち着いているし,給料を上げるも下げるも評価以前の原資次第という事情があるのだろう。しかし,「それでは成長しない」と著者は危機を指摘する。そして,従来の制度を行き詰まらせてきた「納得感」「賃金反映」「評価結果のフィードバック」といった諸課題はプロセスに過ぎず,それら自体をゴールと誤認してはならないと注意を促す。その上で,「人材育成を通した経営目標の達成」を目的に置いた「ビジョン実現型評価制度」の導入を提案している。
 具体的には,経営計画と人材育成目標の作成にまでゼロベースでさかのぼり,そこで明確になったビジョンに沿って,グレードや評価基準を作り,ウェイトを配分していく。制度設計の進め方はオーソドックスな手法といえるが,運用面ではもはや人事制度の域を超え,経営そのものを機能させる仕組みの提案といえるだろう。

●著者:山元浩二  ●発行:中経出版/2010年8月4日
●体裁:四六版/225頁  ●定価:1,500円(税別)

ビジネスリーダーの強化書

 前例や過去の成功体験が通用しない時代を迎え,ビジネスリーダーに課せられた任務はますます重大な様相だ。誰にでも想像できる程度のことは競合他社がすぐにマネをして,価格競争に陥ると著者は見通す。すなわち,これからは,新製品開発にせよ,マーケット戦略にせよ,誰もが想像し得なかったような飛躍力が求められるとし,ビジネスリーダーの役割を以下の4つに整理している―@ビジョンを示す(冒険家),A人を組織化する(指揮者),B学習の場を作る(師範),C経営のインフラを整える(建築家)。
 ややもすると経営学のロジック解説に陥りがちなリーダー論を,本書はドラマ仕立てのショートストーリーで紹介するなどして,リアルな現実問題に描き出している。また,ローマ帝国の滅亡,ダーウィンの進化論・突然変異論,オーケストラ,少林寺拳法,郵政解散劇,落語, 5 次元数学といった縦横無尽の視野から問いかけ,読む者を飽きさせない。日頃の課題意識の高い人ほど腑に落ちるところ多く,面白く読めるはずだ。

●著者:高野研一  ●発行:日本経団連出版/2010年8月10日
●体裁:四六版/263頁  ●定価:1,300円(税別)

君の会社は五年後あるか?

 ワークスアプリケーションズ代表取締役CEOである著者は「飛び抜けて優秀な人材だけを集め,最大パフォーマンスを発揮できる環境を作る」と本書にビジョンを語っている。圧倒的に優秀な人材しかいないシリコンバレー型ベンチャーがひとつのモデルだといい,マニュアル化・組織化は極力回避してきたと組織運営の秘訣を明かす。その姿勢は社員数2,200名に成長した現在も健在で,同社が人材を見極めるポイントはロジカルシンキングとクリエイティブシンキングの両立だと述べている。すなわち自らの頭で考え,ゼロから1を作り出せる人ということでもある。その卓越した人材力を支える入口が「採用」であり,思考力と創造力を問うインターンシップのカリキュラムは興味深い。さらに入社後の人事制度もユニークだ。例えば「カムバック・パス」は,いったん退職した社員が遠慮なく復帰できる制度とされる。ベンチャーを超えメガ・ベンチャーを目指すという同社の人事政策がどの点で差別化されているのか,経営者自ら輪郭を示した1冊といえる。

●著者:牧野正幸  ●発行:角川書店/2010年8月10日
●体裁:新書版/173頁  ●定価:724円(税別)

人脈のできる人

 ビジネスの場でよく言われる「人脈」とは何か。定義の曖昧なこの人間関係性について,多角的に考察を試みたのが本書だ。主要企業の人事部から推薦してもらった「デキる人」やMBAコースの社会人学生らへのインタビューを通して実相に迫っていく論の運びが面白い。フィクションの世界では「人脈豊富な実力者」が登場したり,クールな「ギブ・アンド・テイク」でビジネスが進んだりしがちだが,実際には,計算づくで対象者にアプローチされる場面は少ない。というより多くの場合アプローチもされない。つまり,“いざというときには一肌ぬいでくれるのではないか”と相手に期待する想いこそが「人脈」の正体ではないかと疑う。「人脈」といえる関係性を形成する要素は「修羅場体験と自己開示」「見極め力と思考性向」「返報性と長期的な時間軸」の3つとされる。これらの機能特性を人事部門で応用しようとすれば,「人脈豊富な人」を採用するのではなく「修羅場」が機能するような接点を作っていくことではないかとアドバイスも綴っている。

●著者:高田朝子  ●発行:慶應義塾大学出版会/2010年8月25日
●体裁:四六版/211頁  ●定価:1,800円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki