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書評 2013.04

部下を育てる[承認力]を身につける本

 上司の立場にある人のための“部下接し方ガイド”といえる内容だ。書名にある「承認力」とは,相手の存在を認め,提案や仕事ぶりをまずポジティブに受け入れる姿勢を表している。構成は,叱り方・ほめ方・言葉の使い方といった上司の振る舞いに関するアドバイスが中心で,いわゆるコーチングの理論・テクニックがベースにある。加えて本書では,日常の仕事レベルにかみ砕いた目線で数々のエピソードが語られ,実践ありきの整理が広く企業人読者の腑に落ちるものと推測される。相づちのセリフ,ポジティブな言い換え,また,細かく指示しすぎず実務を任せてみるといった手法も有効性が高いとされる。ポイントは,よく見てこまめに声を掛けること。すなわち,普段からの“信頼の貯金”があれば叱るときも,やや無理な仕事を依頼するときも素直に受け入れてもらえると述べている。“なめられないように”と威厳をにじませるのではなく,失敗をさらけ出す余裕こそ求められるとも諭す。熱意が空回りしがちな新任管理者などにはぜひ手渡したい。

●著者:吉田幸弘  ●発行:同文舘出版/2013年2月7日
●体裁:四六版/229頁  ●定価:1,400円(税別)

同期の人脈研究

 「同じ釜の飯を食った仲間」と肯定的に語られる「同期」とはいかなる人間関係なのか,著者は新聞記者時代の秘話も交えて多面的に真相に迫っていく。サンプルの対象は旧大蔵省,法曹界,企業ではリクルートと竹中工務店。さらに電機業界の社員・OBらへの取材も重ねている。「同期」は仲間を支え合う一方,ときに確執の種にもなる。そうかと思うと,世代グループの優位性を誇示するために結束するなど連帯意識にも作用する。こうした特徴を捉えて本稿では「同期=結束と競争の共同体」との定義を導き出している。また,大学の「同窓」を重視する米国の事情と比較しながら,「同期」は“本籍を照会するような機能を持ち合わせている”と,日本社会の特殊性も指摘する。その上で,「同期」の持つ文化的側面を認め,閉塞した社会で疲弊する人々の絆を回復させる鍵になるのではないかと期待も寄せる。関係者へのインタビューが充実していて,論考のタッチは研究書というよりドキュメントあるいはドラマに似て,逸話の展開が面白く読める。

●著者:岸 宣仁  ●発行:中央公論新社/2013年3月10日
●体裁:新書版/301頁  ●定価:860円(税別)

ノマドと社畜

 学生や若手が抱きがちな“ノマド=自由でかっこいい働き方”という幻想を見事に打ち砕く内容だ。一握りの有名人をノマドワークの成功者に仕立て,著作を買わせたり,セミナーに誘ったりするのは“デジタルな香りがする貧困ビジネスではないか”と著者は疑う。契約社会,合理思考の企業体質,個人主義的文化といった歴史背景があって,その上に経験とスキルを磨いた実力者(エンジニアや医師など)が生計を立てている欧州のノマドと,今の日本のブームは全く違うと述べ,ご自身が在住する英国の事情と対比させ,多元的に錯覚を暴いていく。その過程では日本のサラリーマンを「社畜」とみなし,滅私奉公ぶりを毒舌たっぷりにこき下ろすこともする。ただ、定期収入が保障され,交通費も支給され,有給休暇も取得できる立場はフリーに比べて有利だとも認め,「ノマドにもなれない,社畜はいやだ」とすくむ若者には「ノマド的社畜」という生き方を勧める。「能力・スキルのないフリーランスが低賃金の外注で終わる悲劇を憂う」と親心もにじむ1冊。

●著者:谷本真由美  ●発行:朝日出版社/2013年3月15日
●体裁:B6変型版/184頁  ●定価:880円(税別)

65歳定年制の罠

 65歳までの雇用義務が課された企業は,再雇用制度をとるところがほとんどで,働く側からすると給料は半分近くにまで減るケースが多い。それでも働く場があれば安心なのかと,本書は疑問を投げ掛ける。再雇用先ではお荷物扱いされ“居づらくなる年月が伸びるだけ”かもしれず,地道に勤め上げたとしても65歳から先,再び仕事も収入もぷつりと途絶えるリスクを負う。そこまで窮屈な思いをして年金に依存するくらいなら,自助努力の選択があってもいいと語り,中高年からの起業を提案している。ただ,中高年起業には特有の注意点もあるとし,元手のかかる事業や興味があるだけの素人参入は避けるよう「定年起業を成功に導く10カ条」をアドバイスしている。ポイントは得意分野で小さな事業を展開すること。ただし,会社員時代に動きの鈍かった人が独立して急にフットワークが良くなることはないとも述べ,40〜50歳代からのシミュレーションの必要性も指摘している。中高年向け研修の課題図書に推奨できるかどうかは,人事の度量次第か。

●著者:岩崎日出俊  ●発行:KKベストセラーズ/2013年3月20日
●体裁:新書版/207頁  ●定価:752円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki