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書評 2014.02

人はなぜ集団になると怠けるのか

 “集団で作業を行うと1人当たりの努力量が減少する現象”=「社会的手抜き」について,社会心理学を研究する著者が一般読者向けに解説した1冊。この場合の「手抜き」とは国民を集団とみなせば,投票率の低下や年金保険の未払いなどが該当し,職場では,仕事中のネットサーフィンや給湯室でのおしゃべりなどがあてはまるという。こうした「社会的手抜き」は,集団の中に埋没し他者の目を気にしないで済む状況で発生しやすいことに加え,個人の努力が評価できない,努力の必要がないケースでも起こりうると発生要因を整理。洋の東西,男女,性格(勤勉性・ナルシズムなど)等による差の有無についても内外の実験結果を手がかりに因果関係を検証している。企業人事の立場では,手抜きの抑制という面から「監視」が有効なのか,あるいは「貢献度を評価」したり「倫理観に訴求」したりして予防できるのかも興味深い。善悪の判断はひとまずおき“手抜き”が生み出すユーモア効果にも言及するなど,広い視野から考察を楽しめる仕上がりになっている。

●著者:釘原直樹  ●発行:中央公論新社/2013年10月25日
●体裁:新書版/253頁  ●定価:880円(税別)

会社で活躍する人が辞めないしくみ

 優秀な人材が会社を辞めないよう対策を打つのは当然としても,では「これをやっておけば大丈夫」といった便利な引き留め策などあるのか? との疑問が本書の各トピックに一貫している。例えば,歩合報酬やポストによる特別待遇でつなぎ止めを図るようなやり方では長続きしない。かといって場当たりに次の人を求めても同じことを繰り返す結果になる。従業員たちが求めているのは「安心して働ける職場環境」であるとの確信を持つに至った著者は,その要素を分析し,「数年先の展望が抱ける」「失敗が許容される」「育てる仕組みがある」「尊敬できる上司がいる」「育成型の評価制度がある」といった経営姿勢に注目している。さらに,経営者と目指す理念が共有された従業員たちが,好きな仕事に没頭できる職場が実現できていれば“その会社にとっての優秀な人材”は決して辞めないとも述べ,“魅力のある会社になることが最強の引き留め策だ”とのアドバイスを導いている。時間のかかる取り組みだが,経営の真実であることには間違いない。

●著者:内海正人  ●発行:クロスメディア・パブリッシング/2013年11月11日
●体裁:四六版/237頁  ●定価:1,480円(税別)

人事担当者・経営者のためのEAPケースワーク30

 企業から様々な相談を受けるEAP(従業員支援プログラム)サービスを担当しているコンサルタントらが,ありがちなケースと解決のプロセスを30事例にわたって紹介している。本書では「若手社員のやる気」や「職場のコミュニケーション」など広範なマネジメント課題を扱いつつも,中心は「健康問題」で,特にメンタル系が詳しい。例えば,会社は安全配慮義務から社員の異常を見過せない立場だが,対象者が疾病状態にあるかどうかまでは判断できず働きかけに悩む。難しさという点では休職・復職プログラムのあり方,運用の仕方でも知識と知恵が求められる。また,メンタル不調の背後にパワハラやセクハラがあった場合は,人事部の対応が一段と重要になる。さらに,近年は海外赴任者(その家族)の健康管理,災害被害者(および支援者)を襲う惨事ストレスのケアも複雑さを増しているという。これら一連の課題に会社はどう取り組むべきなのか。EAPの活用とともに,人事担当者にもヘルスリテラシーが欠かせない時代だと気づかされる。

●著者:保健同人社EAPグループ  ●発行:保健同人社/2013年12月22日
●体裁:四六版/152頁  ●定価:2,200円(税別)

君の働き方に未来はあるか?

 学生たちの就職活動を身近に見て,改めて「正社員」の本質を整理していく労働法研究者による論の運びが面白い。「雇用」を「自営」と対比させ,従属と安定の両面を偏りなく描いていく分析は歯切れがよく論調もクリアだ。正社員は労働法に守られる立場としながら,その労働法自体が実は時代とともに変質すると俯瞰する。さらに,経営トレンドや労働法制,社会変化の兆候をとらえて「正社員の解体が進んでいる」と“神話の崩壊”も予見している。非正規との違いでは正社員が様々な学習機会に恵まれている点に着目しつつ,身につけるべきは「社内特殊スキル」ではなく「転職力(汎用性のある他社に引き抜かれるスキル)」だと示唆。「転職力」が隷属的労使関係から逃れる担保になると同時に,独立起業へのハードルを下げる効果もあると注目している。これから働く若者へのアドバイスでは「IT」が社会構造(ヒエラルキー)の大転換をもたらす可能性を秘めていると考察し,「社畜」から脱し自由に働く「プロ」になるためのヒントに引き寄せている。

●著者:大内伸哉  ●発行:光文社/2014年1月20日
●体裁:新書版/243頁  ●定価:760円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki