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書評 2015.01

プライドが高くて迷惑な人

 “私は特別扱いされて当然”とばかりにわがままな言動をとり,周囲に迷惑をまき散らす人たちの心理メカニズムを分析し,有効な処方箋を探った精神科医の手による1冊だ。所属・役職,あるいは美人・成績優秀など“自分は他者と違う”という何らかのプライドを自負しているものの,実績・能力が伴っていないので,周囲は誰も“すごい”とは思っていない。そのことがまた本人の欲求不満となって迷惑行為に及ぶケース(@自慢賞賛型,A特権意識型,B操作支配型)が多いとされる。いずれも,経験の裏付けが弱く,他者との関係がうまく築けていない状況で自己愛を満たそうとするとき,“私はできるはずだ”という幼児期の「幻想的願望充足」が引き起こされるという。通常は成長過程で「身の程を知る」はずだが,このプロセスが抜けたまま大人になるとトラブルが生じやすい関係性を指摘している。周囲の立場では,正面から否定にかかる対応ではなく,上手な付き合い方を探るほうが得策だとし,また,自分もそうならないよう留意点を整理してくれている。

●著者:片田珠美  ●発行:PHP研究所/2014年10月29日
●体裁:新書版/215頁  ●定価:760円(税別)

「働くこと」を問い直す

 労使関係を研究する著者は,内外の産業史・組合史を振り返りながら,日本では1980年代に利害調整のバランスが崩れたと指摘する。かつて労働組合には社会全体をリードする意思があり,例えば産業単位での春闘の成果は組合未加入層にも波及していたと検証する。それがプラザ合意を前後して,個別組合が「経営参加」の姿勢をとる過程で関係が変わり,2000年以降は個別企業の支払い能力に基づく春闘という構造に変質してから組合は交渉力を失ったと見ている。ライフスタイルが多様化することで働き手の役割(家族を養う)が変わり,増加する「雇われずに働く人たち」をカバーする社会システムが追いついていない現状を鑑みるとき,今こそ“壊れたものを取り返す”段階ではないかと打ち手を探る。抵抗==>要求==>参加という組合活動の変遷を俯瞰し,「参加」のテコを組み直すか,「抵抗」「要求」に立ち戻る選択肢も提案。「働いている実感」を得てこそ「生きる意味」が問えるとし,需給関係だけでは語れない労働の本質を模索する論考を綴っている。

●著者:山崎 憲  ●発行:岩波書店/2014年11月20日
●体裁:新書版/227頁  ●定価:780円(税別)

ハイパフォーマー 彼らの法則

 インタビューベースで膨大な数のハイパフォーマー分析を手がけてきた著者が本書にて注目しているのが「好循環の起点」である。余裕を持って仕事に向かう==>結果の品質がいい==>評判が高まる==>上質な顧客から声がかかる==>納期やノルマに追われず余裕を持って仕事に挑める……といったサイクルが典型だ。何かと悪循環に陥りがちな普通の人とハイパフォーマーはどこが違うのか。その行動特性は大きく5つに分類できるとされる(@失敗を避けず直視し学んでいる,A止まらず行動し続け軌道修正を図っている,B身近な人を助け成功を支援しモチベーションを高めている,C目先の利益ではなく長期視点で成果再現性のある行動をとっている,D見よう見まねで周囲に溶け込み暗黙知を吸収している)。ただし,いずれも「帰納法で整理した」と語られる通り,あまり類型分類にこだわらず事例のまま受け止めたほうが腑に落ちる。様々な職場の人間関係・背景事情までリアルに把握でき,逸材を見抜くヒントも満載。人事に携わる皆様には面白く読めるはずだ。

●著者:相原孝夫  ●発行:日本経済新聞出版社/2014年12月8日
●体裁:新書版/231頁  ●定価:850円(税別)

リーダーのための「人を見抜く」力

 本書に綴られた野球界の話は企業人事にそっくり当てはまる……と思ったら,監督自身が読書家であり,すべてを野球に置き換えて咀嚼してきたと告白している。どうりで語られる内容がビジネスと親和性が高いはずだ。例えば試合での「失敗」を巡っては,心から悔しがり「なぜだ」と考える選手は将来伸びると期待する。一方で「仕方ない,次がんばろう」と立ち去る選手に「次はない」と厳しい。目標を問われて個人成績を口にする者は退け,「チーム優勝です」と言い切るメンバーを信用する。素質だけで漫然と勝負していたらすぐに壁にぶち当たると予見し,だから技術を磨けと指導する。そのうえで「技術的限界を感じたところからプロとしての本当の闘いが始まる」と考え抜く力を求める。現役時代から,他チームも含め,打者・投手らを観察し,監督に就いてからはさらに広く選手たちを洞察してきた眼力に学ぶ点は多い。「成長は感謝の気持ちが支えている」と,もはやビジネス界では誰も指摘しなくなった基本から諭してくれる眼差しもありがたい。

●著者:野村克也  ●発行:詩想社/2014年12月20日
●体裁:新書版/191頁  ●定価:880円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki