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書評 2015.10

自分の価値を最大化するクオリフィケーション思考

 外資系金融機関でゼロからキャリアを積み,今はグローバル進出企業の支援や研修講師で活躍する著者は,近い将来,日本でも人材市場の評価基準が大きく変わると予測している。学歴・出身校,TOEICの点数,MBA資格などは関係なく,グローバル基準の可視化された成果が問われる時代がまもなくやってくるとの認識を示す。その新時代の対応力(資質)を自身の実体験ベースから4つのポイント(@働く姿勢や心構え,Aコミュニケーションの方法,B身だしなみや振る舞い,C人とのつながり)に分け,「クオリフィケーション」と総称し,ポテンシャルの高め方をアドバイスしている。多国籍の環境で成果を出していくには,プレゼン,発言力,会議ファシリテーション等のスキルのほか,服装,喫煙・飲酒習慣,交友関係にまで配慮が必要だと指摘。また,人材価値は異質の環境でこそ見出されるとし,居心地のいい同質社会をあえて飛び出す勇気を求める。野心あふれるビジネスパーソンには刺激に満ちたキャリアガイダンスになるかもしれない。

●著者:池田哲平  ●発行:かんき出版/2015年8月3日
●体裁:四六版/192頁  ●定価:1,400円(税別)

人材育成担当者のための絶対に行動定着させる技術

 「行動変容」の第一人者である著者は,企業で実施される研修の多くが効果の確認にまで至らないのは,設計段階に問題があるからではないかと疑う。研修の目的は対象者が職場に戻り,学習成果を発揮して組織業績を高めるところにあるはずだが,現実には,研修当日の“盛り上がり”でよしとしてしまう誤解が見受けられると語っている。行動変容を目的に置くなら,研修の設計段階で対象者の上司や研修講師も関与すべきだとし,当日の実施内容,職場での経験学習,効果測定までの一貫性を求める。また,確実な行動変容を促すためにはPDCの後にF(フィードバック=振り返り)のプロセスが不可欠だと指摘。反省文や報告文とは異なる“内省の文書化”を継続的に実施する「PDCFA」という独自の運営サイクルを提案している。蓄積された膨大な研修データの分析を交え,対象者の行動を変え,習慣化させ,定着させるための研修の進め方を惜しみなく公開していて,内容は非常に濃い。2度3度と読み固めて実務の改革にぜひ取り入れたいところ。

●著者:永谷研一  ●発行:ProFuture/2015年8月31日
●体裁:四六版/240頁  ●定価:1,800円(税別)

すべての組織は変えられる

 著者らは,組織の関係性に働きかけるコンサルティングを展開し,いくつもの改善手法を編み出すとともに,リーダーとメンバーの関係を良好にすることで業績が向上していく実証データを蓄積している。戦略の価値が100でもメンバーの感情が50なら行動も結果も50にとどまる一方,メンバーの感情に火がつけば結果は120にも130にもなると語り,人数の足し算を超える力を発揮するチームワークの秘訣を解き明かしている。基本は組織内の相互理解であり,例えば,他部署の仕事を体験させたり,ミーティングの司会役を持ち回りにしたりするちょっとした工夫で関係がスムーズになったケースや,会議を報告の場(トラブルの隠蔽)から解決策を探る場(トラブルウェルカム)に変える方法などを紹介している。また,リーダーがメンバーに対して「詰める」のではなく「褒める」接し方に変えただけで業績が格段に伸びたケースも例示し,部下を「甘やかす」とは考えず「承認のスキル」だと思ってマネジメントの意識改革を進めてはどうかと提案する視点も興味深い。

●著者:麻野耕司  ●発行:PHP研究所/2015年9月1日
●体裁:新書版/207頁  ●定価:850円(税別)

研修・セミナー講師が企業・研修会社から「選ばれる力」

 100人以上の講師と100社以上の企業・機関で研修企画を実現してきた研修プロデューサーの立場から,著者は企業側に望まれる講師の条件を探っている。「売れない講師」と「またお願いしたい講師」の決定的な違いは相手の問題を解決するスタンスに立てるかどうかだという。ただし難しいのがその「相手」が誰かという問題であり,受講者はもちろん,研修事務局,人事部,経営の意図まで汲み取る敏感さが欠かせないと語っている。また,研修講師は「先生」と呼ばれるがゆえに“天狗”に陥るリスクが高いとし,ベテランほど素直さ謙虚さが不可欠だとも指摘している。一方,「売れない講師」の典型は「熱心に自分の話ばかりを続けるタイプ」。企業側のニーズは具体的かつ費用対効果にシビアであり,「講師歴○十年,話の面白さでは定評」では通じない時代だとも警告する。研修産業全般を概観したうえで,講師の商品力,マーケティング戦略を論じる構成ながら,企業人事にとっては裏話が楽しめる。講師選び,研修企画の参考にもなりそうな内容だ。

●著者:原 佳弘  ●発行:同文舘出版/2015年9月25日
●体裁:四六版/203頁  ●定価:1,400円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki