書評 2017.01
事業拡大を実現する中小企業のための「長期インターン」活用戦略
著者は名古屋に本社を置く(株)丸八テント商会の社長。半年以上の長期インターンシップに取り組んで,就職を控えた学生たちを支援するとともに,自社の業績アップ,社風変革,採用難の克服といった副次的な成果を挙げている。本書はその驚くべき活動内容の当事者によるレポートだ。同社のインターンシップは,学生・コーディネーター・企業の3者でプロジェクトを組むスタイルで進められる。学生を“お客さん”として扱うのではなく,また“バイト・お手伝い”程度の補助作業をさせるのでもない。学生たちのニーズは「成長感」にあるとの確信に基づき,社を挙げてとことん応えていく姿勢を貫いて,結果的に様々な成果を生み出しているのだ。ビジョンを示し,役割を説明し,一定の裁量を与えて任せると予想もつかない能力が発揮されると,社長自らが「インターン生のやる気を引き出す10のポイント」を詳述する。やる気あふれる学生たちが積極的に動くことで,職場の雰囲気も変わるとされ,中小企業経営の1つのブレイクスルーが描かれている。
●著者:佐藤 均 ●発行:幻冬舎メディアコンサルティング/2016年11月12日
●体裁:四六版/204頁 ●定価:1,400円(税別)
現場で役立つ! セクハラ・パワハラと言わせない部下指導
ハラスメントのグレーゾーンをどう扱うか? 法務・コンプライアンス研修のベテラン講師が“適切にさばくためのガイド”を整理している。解説に先立ち典型的なグレー事例(組織によって正解が異なるエピソード)が示され,まずは読者も考えさせられる。グレーだからと放っておくと,当事者は救済されず,職場のモラルも崩壊していく。また,会社が面倒を避ける姿勢では,部下指導も進まず,中長期的には組織力が低下していく。これらリスクを指摘したうえで,セクハラの場合は「(合理的・妥当性がある前提で)相手がセクハラだと感じたらセクハラになる」との基準を明かす。一方,パワハラでは「(相手が不快に感じようとも)業務の適正範囲かどうか」だと解釈のヒントが示されている。ただ,セクハラ・パワハラともに当事者には結論と理由を説明する必要があり,管理者個人ではなく組織的に対処する重要性にも言及している。その点で,最終ページに示された「ハラスメント問題への対処の全体像」は必見のフローチャートといえるだろう。
●著者:鈴木瑞穂 ●発行:日本経済新聞出版社/2016年11月16日
●体裁:四六版/191頁 ●定価:1,600円(税別)
お祈りメール来た,日本死ね
タイトルのインパクトとは裏腹に,本書には新卒採用のあり方を考察した精緻なレポートが綴られている。論考の前半では日本企業の新卒採用を100年史で俯瞰し,青田買いと就職協定のいたちごっこの様相から根深い問題点を炙り出している。後半では,欧米型の雇用システムを掘り下げ,日本型との違いを解説。多くの雇用問題論者が目をつぶっている「欧米型雇用の不都合な真実」を暴く。すなわち,海外では職務ベースの雇用システムゆえに,未経験者の大量採用などなく,経験を積む第一歩のインターン期間が苛酷な状況に置かれていると報告する。また,欧州では職務が固定的で,職務給ゆえ年収も上がらない構造にあること,米国では比較的オープンな採用の一方で解雇も容易な一面を抱えていることなど挙げ,各国それぞれに雇用制度は一長一短があると指摘している。日本型一括採用にも欠点はあると認めつつ,通年・自由化などの先走った改革論には待ったをかけ,例えばトライアル雇用など,まずは補強策を模索してはどうかと提案している。
●著者:海老原嗣生 ●発行:文藝春秋/2016年11月20日
●体裁:新書版/256頁 ●定価:820円(税別)
どんな時にも成果を出すリーダーが磨き続ける5つの要諦
国内大手および海外企業で活躍してきた著者の経験と古今のマネジメントに関する知見から“リーダーシップ”を再定義し,人生論にも踏み込んで心の持ち方を綴った1冊。第1章ではリーダーシップの規範として,@ビジョン力,A戦略力,B人を巻き込む力,C実行力,D人間力の「5つの要諦」を整理し,各項目の勘所を公開している。続く第2章では「会社を導くリーダー」の項目を設け,ホンダ・ヤマト運輸・伊藤忠商事・日産自動車・リコー・キヤノンの各社トップの優れた経営手腕を解説。同時に「ダメにした経営者」の項目では,お家騒動,不正会計,データ改ざん等の不祥事を手がかりにリーダーシップの不備を厳しく検証している。ご自身が勤務した企業での“事件”も念頭に,会社の成長・敗北は経営層のリーダーシップ次第であり,スキルだけがあっても人間力が欠けると問題が起きると警告している。特に部長クラスが数字に追われ,理念を考える余裕を失っている姿を憂い,第3章では組織を最強に導く8つの方法(アクション)をまとめている。
●著者:藤井義彦 ●発行:生産性労働情報センター/2016年12月1日
●体裁:四六版/270頁 ●定価:1,500円(税別)
HRM Magazine.
|