書評 2021.04
ジョブ型人事制度の教科書
人事コンサルティングの立場から長く「職務給制度」の知見を蓄積してきた著者グループは,今の時代の「ジョブ型人事」の導入を本書にガイドしている。日本の労働慣行とのギャップを明らかにしたうえで,日本企業にマッチした制度の作り込みを詳述。ジョブ型の根幹は,職務等級制度による人事の仕組みにあるという大前提で,職務価値の点数化作業,評価制度の設計(目標設定と業績評価),等級管理,報酬制度(昇降給)のあり方に分け入っていく。大枠は書名の通り教科書的・体系的な構成に則りつつ,各章の解説ではもめるポイントに踏み込むなど現場実務への注意点にも目配りが利いている。また,ジョブ型人事には欠かせない「職務記述書」のまとめ方が整理され,参考事例の少ない日本企業の読者にフックする内容といえる。さらには,「導入コミュニケーション」のトピックを独立させ“社員への制度説明”を重視したレクチャーも人事担当者には要注目のコンテンツとなるはずだ。後半には4社の運用事例を載せ,立体的な理解を助けてくれている。
●著者:柴田 彰/加藤守和 ●発行:日本能率協会マネジメントセンター
●発行日:2021年3月5日 ●体裁:四六版/221頁
働くあなたの経営学
経営学と企業活動の接点を考察した1冊。中小企業で働く入社3年目のA君が大学研究室の教授に相談を持ちかける「対話編」と,該当テーマの学術的背景,今日的意味を整理する「解説編」のセットで,10章にわたる物語が展開される構成だ。変化の激しい時代になぜ組織戦略は必要なのかというトピックに続けて,個人も戦略的目標を持つべきだと説く一方,その最大の障害は日常業務の負荷にあると,グレシャムの法則を引き合いに矛盾を指摘する。1+1が3以上になる組織の強みを巡っては,人間は助け合う動物だったと原始時代から説き起こし,テイラーやバーナードの学説を経て「協働意志」の確認に至る。さらに,モチベーションは“仕事の面白さ”にあると看破し,有意義性・自立性・フィードバック性の3要素に分解して高め方を探る。最終章では改めて経営学を学ぶ意味に立ち返り,目指す人材像に「自省的実践家」を挙げている。全体に学術の側に寄せた記述だが,現場第一線の悩みどころにもよくかみ合い,学び直しの好奇心を触発されそう。
●著者:佐々木圭吾 ●発行:平凡社
●発行日:2021年3月15日 ●体裁:新書版/231頁
超ジョブ型人事革命
「人事の学校」を主催し,400社以上の企業で人事コンサルティングを展開してきた著者は,その実績をベースに相当に凝縮されたHRの哲学を本書に綴っている。注目のトピック「ジョブ型」を巡っては,「会社が定義した仕事を与えられてモチベーションは高まるのか?」と疑い,仕事の範囲を広げたり,レベルを高めたりする主体性が封じられるリスクを指摘。一歩進めて,社員が自ら職務を記述する「セルフジョブディスクリプション」の運用を提案している。実際,巻末に添付された記入用紙と「営業マネージャー」「人事部門長」の記載サンプルは必見だ。また,優秀な人材ほど雇用契約にはこだわらない現象を捉えて,「超ジョブ型プロフェッショナル」たちが働きやすい環境を作るのがHRの役目だと訴え,HRの目的を「どこでも行ける能力の高い人材がウチで働いてくれている状態」に求める。他にもノウハウ感あふれるチェックリスト・帳票類を多く載せているのだが,やり方の解説よりも“想い”が勝っていて,アツさが伝わってくる論考だ。
●著者:西尾 太 ●発行:日経BP
●発行日:2021年3月15日 ●体裁:四六版/287頁
仕事と人生
三井住友銀行元頭取“ラストバンカー”と称された著者による,6章(評価される人・成長する人・部下がついてくる人・仕事ができる人・成果を出す人・危機に強い人)に区分けされた人材論。いずれの記述もご自身の職業体験がベースで,ほぼ自伝といえる内容だ。古くは,住友銀行入行の顛末(1961),最初の配属先(大阪市大正区)での奮闘にさかのぼる。その後,調査部・審査部では「粉飾決算の見抜き方」を得意とし,上司にも恵まれ,安宅産業の破綻処理担当というターニングポイントを迎える(1975)。そこでの経験が,バブル崩壊に伴う金融危機での不良債権処理(1997)の英断に活きたと述懐している。「バンカー人生に平時はなかった」と振り返る通り,銀行在籍の40年間は動乱期に相違なく,とりわけ全部長をとりまとめ「磯田会長辞任」を要求したクーデター(1990年)の真相は読みどころの1つだ。部下の叱り方・褒め方,率先垂範のバランス,責任を取る覚悟等のリーダー論もさることながら,キャリアの軌跡そのものがドラマチックで興味深い。
●著者:西川善文 ●発行:講談社
●発行日:2021年3月20日 ●体裁:新書版/187頁
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