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なぜ御社の従業員は数字に弱いのか

ビジネス数学の専門家/BMコンサルティング(株) 代表取締役 深沢真太郎

 「数字に強い(弱い)」あるいは「数字が得意(苦手)」といった概念があります。このテーマで教育研修を企画する人事担当者もたくさんいらっしゃることでしょう。実際の研修でどんなものが多いかというと,「会社の数字を読めるようになりましょう」といった財務研修であったり,「データを読めるようになりましょう」といった分析研修であったりします。ところが公認会計士の先生やデータ分析の実務家が担当するこれらの講座を導入しても,なかなか目に見える成果が表れないケースが多いと聞きます。いったいなぜでしょう。それは,冒頭の「数字に強い(弱い)」という概念の定義が曖昧だからです。

■「数字に強い(弱い)」とは何か?

 私はこの定義を「数量になっていないものを数量にする能力」としています。身近な例でいえば,上司に「なるべく早く処理します」と伝えるのではなく「1.5時間で処理します」と発言するケースはいかがでしょう。当たり前のように思われるかもしれませんが,「数量になっていないものを数量にする能力」とはこういうことです。
 実際,研修でご縁をいただく企業の参加者の多くはこれができません。例えば自分の仕事の成果を「組織を活性化させました」「仕事の管理徹底を図ってきました」と説明する人がいます。そこで私が「活性化とは?」「管理徹底とは?」と質問するとその先を答えられないのです。何がどうなったら活性化されたことになるのか。何がどうなれば管理徹底されたことになるのか。そこを定義し,数値化しなければ,仕事の成果は証明しようがありません。
 そのようなことを気づかせるためには,「質問」が有効です。私は教育研修では次の3つの質問をするようにしています。
【Q1】あなたの仕事は何ですか?
【Q2】先月の成果は何ですか?
【Q3】それはスゴイのですか?

 数字に落とし込む意識の低い(あるいはない)方は,どうしても【Q1】の回答に,「活性化」「管理徹底」「効率化」「生産性の向上」などといった耳当たりのよい表現を使います。しかし,自分の仕事を数字で説明できるように定義されていないので,【Q2】と【QQ3】も曖昧な表現に終始し,明確に答えられません。
 一方,自分の仕事を数字の概念で定義できている方は,当然ながら【Q2】と【Q3】も数的情報を用いて説明してくれます。違いはたった1つ。【Q1】の質問に対する答え方なのです。

■数字に弱い従業員の課題を把握できているか?

 ある企業研修で管理職の方に【Q1】を投げかけたところ,「部門の生産性を上げることだ」とお答えいただきました。そこで私が「生産性を上げるとはどういうことでしょうか?」と尋ねると「効率的に仕事をすることだ」とのお返事。そこで私は再び「では効率的とはどういうことでしょうか?」と尋ねると,長い間のあとに「生産性を上げること……でしょうか」との答え。そのときは思わず笑ってしまいましたが,人材教育の観点では笑えないお話です。具体的に何をどうすれば生産性が上がったと評価できるのか,数字で定義しないことにはこの方は永遠に生産性を上げられないでしょう。これが「数字が苦手なビジネスパーソン」の正体です。
 人事担当の皆様にお伝えしたいのは,御社の従業員は何ができていないのか(苦手なのか)をしっかり把握することの重要性です。何となくふんわりと「数字に強い(弱い)んだよね」という程度の課題意識だと,“研修をやっただけ”で終わる可能性が高くなります。ご注意ください。

(月刊 人事マネジメント 2017年12月号 HR Short Message より)

HRM Magazine.

 
幼少の頃より数学に没頭し、大学院にて修士号(理学)取得。その後、予備校講師や外資系企業での管理職などを経て2011年に「ビジネス数学」を提唱する研修講師として独立。数字に苦手意識を持つビジネスパーソンを劇的に変えている。その独特な指導法は「史上最強にわかりやすい」と評され、担当した講義は100%リピート依頼がくる人気講師である。ラジオ番組のパーソナリティやビジネス誌の記事監修などメディア出演も多数。大学でも教鞭をとる傍ら指導者育成にも従事するなど、「ビジネス数学」の普及に務める。著作は国内で累計10万部超。一部は韓国・中国・台湾などでも多くのビジネスパーソンに読まれている。日本数学検定協会「ビジネス数学検定」1級AAAは国内最上位。BMMコンサルティング株式会社代表取締役。一般社団法人日本ビジネス数学協会代表理事。多摩大学非常勤講師。

>> BMコンサルティング株式会社
 http://business-mathematics.com