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書評 2009.11

就活って何だ

 著名企業15社の採用活動最高責任者へのインタビュー集だ。建前で飾られる募集案内とは異なり、担当者の人間性が垣間見られる仕上がりで、人事担当者同士で共感の得られそうな内容が興味深い。登場する会社はいずれも人気企業なので、採用エントリーの数は万の単位に及ぶ。そこから数十の内定者を絞り込む採用のプロたちに、学生のマニュアル武装は通用しない。まず、他社にも同じ内容を送っていると思われるシートは却下。その上で「エントリーシートでは分からないから」と、丁寧に面接回数を積み上げていくのが最近の傾向のようだ。ただし「スポーツやサークルで頑張った」といった体験談や「御社の○○に興味があります」という志望理由などで、話の結末や知識はほとんど評価されない。面接はプロセス志向であり、コンピテンシーを掘り下げて聞き、気付き、動機、価値観といった深いところを観察していく。どうでもいい過去の話ではなく、就活をしている今の「素」が問われる実態を、さて、渦中の学生たちは理解しているだろうか。

●著者:森健  ●発行:文藝春秋/2009年9月20日
●体裁:新書版/255頁  ●定価:740円(税別)

御社の潜在労務リスクをあぶり出すチェックシート

 不況が極まると人件費削減が課題になり、労使紛争のリスクが格段に高まるとされる。加えて、守るべき法律は「労基法」はじめ数多くあり、また、法や通達は解釈の余地が残るだけにさらに紛争を招きやすいとされる。そこで、膨大な労働法の条文、および行政通達の中から、リスクの高い項目を厳選し、カテゴリー別に整理・解説を試みたのが本書だ。ピックアップされた項目は174に及び、それを7つのカテゴリーに区分。細目ごとに5段階(★印)で優先度(=危険度)も示している。当然、ペナルティーの大きい課題、労基署の臨検で指摘される項目などが上位にくる。しかし、危険度が高くても、整備に時間がかかるもの(裁量労働制など)もあり、特に注意が促されている。また、トラブルに至った場合は、第一にルールの存在が問われることから、リスクをあぶり出し、問題を潰すだけでは不足とされ、「就業規則に落とし込むこと」までを求めている。人事部の方には基本項目ばかりかもしれないが、念のためチェックしておいても損はないはずだ。

●著者:土屋信彦/佐藤広一  ●発行:中経出版/2009年9月22日
●体裁:四六版/191頁  ●定価:1,600円(税別)

なぜこの会社はモチベーションが高いのか

 著者ら研究グループは3,000社の中堅中小企業にアンケートを行い,600の有効回答から1 つの法則を導き出した。それは「社員のモチベーションの高い会社は業績もいい。社員のモチベーションが低い会社は業績も低い」というものだ。そこで,社員のモチベーションを向上させる(低下させる)要因を探り,レポートにまとめたのが本書である。先のアンケートに加え,100社を訪問調査し,うち15の企業事例をピックアップしている。
 モチベーション低下の代表的な要因に「賃金・評価への不満」があるが,著者らによれば「額」が問題ではないという。不満の源は「成果主義への不満」や「評価者への不信」「評価方法や結果の伝え方の課題」にあったりする。ひるがえって,モチベーションの高い企業の事例では「仕事・商品への愛着」「働く誇り・喜び」「安心して働ける人事制度」「人づくり・社員の成長」といったキーワードが並ぶ。社員満足度の高さが顧客満足度の向上に結びつき,不況でも高業績を維持している企業群には学ぶところが多そうだ。

●著者:坂本光司、他  ●発行:商業界/2009年9月25日
●体裁:四六版/215頁  ●定価:1,429円(税別)

「文系・大卒・30歳以上」がクビになる

 リーマンショック後の派遣切りなどのリストラは序章に過ぎず、今後は正社員ホワイトカラーが削減されると著者は見通す。自身もホワイトカラーであり、ホワイトカラーを悪者にする意図はないとは言うものの、内容はかなり厳しく悲観的に映る。ホワイトカラーは過去20年“作る”“売る”という直接的な貢献をせず、高収入を得ながら自己増殖を続けてきたとし、必要性が薄く量が多いという点で、今やリストラ対象の最有力候補だと述べる。人口が減少しても増え続けてきたホワイトカラーの数を見直すとすれば、2002年がベンチマークになると分析し、今後の削減数を100万人とはじき出している。「貢献はそれなりにしている」「正社員だから簡単には切られない」「大企業は関係ない」といった意見に対しては「思い込みに過ぎない」と切り捨て、第4章『人事部長M氏の見た光景』に手の込んだリストラをシミュレーションする。その上で、ホワイトカラーの削減は成長のために必要なプロセスとの認識を示し、企業、個人、政府それぞれに構造転換を迫る。

●著者:深田和範  ●発行:新潮社/2009年10月20日
●体裁:新書版/192頁  ●定価:680円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki