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書評 2009.12

OJTの基本

 OJTという手法が日本の企業に根付いて50年になるという。この間、経済環境も勤労者の意識も大きく変容し、OJTのスタイルも変える必要に迫られているとうのが、著者らの問題意識だ。本書では管理監督者が日常的に接する部下管理一般をOJTととらえ、新人教育のプログラムに限定していない。従って、扱うマネジメントの領域は広く、「日常業務のコミュニケーション」すべてが重要なポイントと位置づけられている。第1章では、指示命令、報連相、権限委譲、折衝調整、活性化といった上司の役割を中心に日常マネジメントの進め方が整理されている。続く第2章では、様々なケースとアドバイスが紹介されている。若手はもちろん、中堅、ベテラン、また営業、生産といった部門を問わず、反抗的、責任転嫁、非協力といったコミュニケーションの阻害は起きる。もはや「背中で教える」姿勢が通用しない時代。ケースごとに丁寧な問題点分析と取るべき行動姿勢が整理され、上司の立場にいる者には役立つアドバイスがたくさんもらえそうだ。

●著者:寺澤弘忠/寺澤典子  ●発行:PHP研究所/2009年10月2日
●体裁:新書版/271頁  ●定価:820円(税別)

4つのカラーで見直そうこれからの働き方

 本書は、学歴・職歴以前の生来特性(=持ち味)を分析する「バークマンメソッド」を紹介し、タレントマネジメントの可能性を探っている。バークマンメソッドとは全世界で5,000社150万人の実績データを持つ人材分析手法の1つで、設問に答えることで4つのカラーと3つのシンボルにタイプが類型化される。本書に掲載されている簡易版でも16の質問に答えるだけで、自分の特性がある程度分かる。分類される4つのカラーとはレッド(実行促進型)、グリーン(関係構築型)、ブルー(企画業務型)、イエロー(管理運営型)。また3つのシンボルとは、*(興味分野)、◆(得意行動)、□(ニーズ/ストレス)を指し、これらの分析によって、“あこがれてる分野”と“実際に得意な分野”のギャップが明らかになったりする。さらに、自分、同僚、部下、上司、それぞれのタイプを理解すれば、仕事に応じて得意な人に任せるといった行動もとりやすくなるとされる。人事部門では、チームビルディングや、人材育成で応用できるかもしれない。

●著者:伊藤武彦  ●発行:ファーストプレス/2009年10月26日
●体裁:四六版/197頁  ●定価:1,500円(税別)

部下が病気にならない できる上司の技術

 カウンセラーという立場上、著者は人事担当者や管理者からメンタルヘルスに問題を抱える部下について相談を多く受けるという。職場にうつ社員が増える今の時代、メンタルヘルスの知識と対応力は管理者のビジネススキルに欠かせないと述べる。しかし、その対応こそが難しいようだ。初期対応では積極的な解決より「話を聴く(にとどめる)こと」がまず大事になる。ところが、できる管理者ほど「解決」を目指したアドバイスに踏み込んでしまう。部下のメンタル不全の原因が上司自身にあるケースも多い。明らかなパワハラはもちろん、スキルや意識の高すぎる上司の場合も、部下にはプレッシャーになる。ちなみに、部下が最もストレスを感じる上司のタイプは「自己愛型」で、その特徴は本書に詳しく紹介されている。メンタルヘルス案件では、個人でできること、組織対応が必要なこと、専門家にしかできないことを理解したうえでの対応が求められるとし、「受診の勧め方」「休職中の部下への適切な対応」など基本的なマネジメントが解説されている。

●著者:松本桂樹  ●発行:WAVE出版/2009年10月26日
●体裁:四六版/232頁  ●定価:1,400円(税別)

考え抜く社員を増やせ!

 数千人規模の大企業ともなると、精鋭人材の質は違う。属人的スペックはもちろん、議論や会議の仕切りなどもロジカル、スピーディーで、合理性、効率性を高めるスキルに長け、関係者の調整力さえ兼ね備えている。
 しかし、そのスタイルで今の難局を乗り越えられるだろうかと著者は疑問を差し挟む。担当業務を“どう進めるか”“いかに速めるか”という枠組み以前のところで、仕事の“意味”や“価値”を考える力が不足しているのではないかと憂慮を示す。実際、著者らは、答えのない時代の対応力を養う目的で“シナリオのない研修”を手がけている。与えられた前提や方向性のないところから何を議論していくのか、優秀な人材であっても自分の職務以外に関心のない人たちには対応できない実態が露呈するという。業務案件の処理は最終目的ではなく、本当にやらなければいけない仕事とは何かを問う力を鍛えよ、と訴える。さばく、こなすでは“将棋のコマ”に過ぎず、自らの読みを持った“将棋指し”を目指せと、本書に託された思いは熱い。

●著者:柴田昌治  ●発行:日本経済新聞社/2009年11月9日
●体裁:四六版/207頁  ●定価:1,200円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki