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書評 2010.01

社長の人事でつぶれる会社伸びる会社

 「社長のための人事」を多角的に説いた1冊。といっても即効性を狙ったお手軽なノウハウ集ではない。著者自身が会社を興して10年を超え、その経験から語られる中長期目線の人材論が興味深い。
 人事は投資であり、営業や商品開発同様、時間や精神エネルギーを注入していかなければいけないと述べ、中小企業でも新卒採用を基本とし、5年先の活躍を期待しながら着実に育てていくスタイルを推奨する。一方、中途採用は現状以上の成長余地が限られるとし“賞味期限”を見極めた上での活用を求める。全体の定着率は90%程度が理想で、ぬるま湯を避ける意味でも一定の入れ替えが必要だとも指摘する。また、新卒・中途を問わず、実績を声高に主張する人物は要注意だとし、「上には上がいる」現実を理解した上で、謙虚に向上を目指す人材に注目せよと、実体験に裏付けられたアドバイスを綴っている。10年という時間軸を視野に、後継者の育成についても言及。Aクラス人材の見抜き方、プレッシャーを与えて鍛える方法なども詳しい。

●著者:樋口弘和  ●発行:幻冬舎/2009年11月25日
●体裁:四六版/240頁  ●定価:952円(税別)

仕事耳を鍛える

 本書の扱う「ビジネス傾聴」は、カウセリングやコーチングのテクニックと少し違う。ビジネスの場で、ひたすら聴き役に徹したり、相手の質問に「あなたはどう思う?」などと逆質問をしたりしては話が噛み合わない。そんなことより瞬時に的確な対応をすることが求められるのだ。その際、聴く側の問題点として、「無視する」(レベルT)、「聞き流す」(レベルU)といった姿勢については自覚しやすく反省も容易だ。要注意なのは聴く側に自覚のない問題行動だと著者は指摘する。拡大解釈して自分の都合のいいように聴いたり(レベルV)、求められていないのに相手の弱点を指摘し、余計な知識披露まで加えたりする(レベルW)ケースが典型だ。まずは一人の人間として共感的に聴くこと(レベルX)から始めよと説く。
 聴く能力とは「発言の行間を読むことだ」とも述べられている。部下が「大丈夫です」と言うとき、それは「そろそろ限界です」というメッセージなのかもしれず、その見極めができれば一人前ということらしい。

●著者:内田和俊  ●発行:筑摩書房/2009年12月10日
●体裁:新書版/239頁  ●定価:740円(税別)

R35の「給料格差」白書

 団塊ジュニア層(35歳〜39歳)の「給与格差をあぶり出す」との意図でまとめられたデータ企画だ。この世代は、バブル崩壊後に社会に出て、就職氷河期、派遣社員、成果主義、格差社会といった雇用問題の最前線に立たされてきたとの自意識が強いという。
 分析の対象は「業種間」「企業間」さらに、この手のレポートではおなじみの「正規・非正規」「官・民」「大企業・中小企業」ほか。面白いところでは「転職組・生え抜き組」「営業部・人事部」といった比較もある。分析の結果からは意外な事実も判明する。例えば、「中央・地方」では、もちろん給与格差は歴然としているが、家賃相場・保育施設費用など“暮らしやすさ”で見ると、東京は一転してワーストに転落する。また、「官・民」より「官・官」(キャリア・ノンキャリア/地方公務員・国家公務員)の格差が割り切れなかったりもする。集められた個々のデータに興味は尽きないが、これだけ並べられると「結局それぞれだな」との当たり前の結論に落ち着いてしまう印象はある。

●編集人:五十嵐祐輔  ●発行:笠倉出版社/2009年12月10日
●体裁:四六版/256頁  ●定価:552円円(税別)

「いらない社員」はこう決まる

 人事担当者へのインタビュー(座談会方式で構成)を通して、生々しいリストラの舞台裏をレポートしている。非正規雇用の契約解除、全社規模での給与・賞与カット、それでもなお人件費削減を迫られ、正社員のリストラに踏み込む企業が続出している。いわゆる「2:6:2」のうち下位2割の削減は当然で、さらに6割の普通の社員の中からどうやってリストラ候補者を選別するかが目下の課題だという。一般に“いらない社員”を決める基準は、@人事考課の点数、A日頃の態度、B将来性(これから伸びる余地)。加えて、やや不透明な「情」も影響する。ある企業では半年近く前から削減計画を準備し、社員を「松(残ってほしい人)」「竹(本人次第)」「梅(辞めてほしい人)」に仕分けしていた。希望退職の募集が公式発表される頃には、「松」への慰留工作と「梅」への退職勧奨が同時進行しているという周到さだ。個別面談に備えた想定問答集など、実質的なクビ切りマニュアルともいえるマル秘資料まで紹介され、なかなか“痛い”内容だ。

●著者:溝上憲文  ●発行:光文社/2009年12月25日
●体裁:四六版/220頁  ●定価:952(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki