書評 2010.02
「社員満足」の鉄則
“入社しても幸せになれない”という将来不安から若い社員らが辞めていくとしたら、会社にとって大変なダメージである。反対に、信じるに値する経営ビジョンがあり、キャリアコースの見通しが示され、それを支える人事制度が機能していたら、外部から倍の報酬を提示されても社員は辞めない。これがES(従業員満足)の強さである。経営にとってESは、一見緊急性はないが、重要性の高い問題だと著者は位置づける。資金繰りやクレーム処理のような緊急対応にばかり追われていると、やがて内部から人材が腐り、会社は倒れるとのリスクが示唆されている。
解決のキーポイントは“5つのES因子”にあるとし、@ビジョンへの共感、Aマネジメントの適切さ、B参画への充実度、C企業風土の最適さ、D職場環境の快適さ、を挙げている。さらに“10のES要素”に分解し、ES調査と分析のやり方から向上策までを具体的に紹介している。いずれの要素も人事部門が戦略的に取り組む課題であったと、改めて気づかされる。
●著者:志田貴史 ●発行:総合法令出版/2009年12月6日
●体裁:四六版/237頁 ●定価:1,300円(税別)
社員の正しい辞めさせ方・給料の下げ方
不況のどん底で苦しむ中小企業の経営者を読者に想定し「礼を尽くした社員の正しい辞めさせ方」と「社員を納得させる賃金カットの方法」を現場目線で解説する。経営が苦しいからといっていきなり従業員らをクビにはできず、残業カットや採用抑制、一時帰休などの「総額人件費の見直し」から取り組むよう一通りアドバイスが綴られている。そしてやむを得ず人を減らす段階でもルールがあるとし、解雇法制の遵守に平行して経営の姿勢(誠意)をポイントに挙げている。通常は苦しい経営状況を従業員らも理解しており、社長のねぎらいの言葉があれば退職に応じる事例は少なくないという。しかし、冷淡に解雇を言い放つような誠意を欠いた対応をとると一転して事件化する。こうした事情の他、後半では、さぼり社員、俺様社員、ダメダメ営業マン、マイペース社員、ふしだら社員、病気がちな社員といったタイプ別に「辞めてもらうステップ」をリアルに紹介する。非常に興味深い内容だが、労使とも手に取るには少し勇気のいるタイトルかもしれない。
●著者:井寄奈美 ●発行:日本実業出版社/2009年12月20日
●体裁:四六版/223頁 ●定価:1,500円(税別)
人材育成の教科書
新入社員教育の進め方を説く一冊。といっても、プログラムや技法ではなく、教育担当者自身の取り組み姿勢にウェイトを置いた筆運びだ。企業内新人教育担当者として活躍してきた著者は、成功のキーワードに「目的」と「一貫性」の2つを挙げる。すなわち、まずは研修の目的を絞り、そのためのプログラムを作り込むこと。その際、目的に外れるなら「我が社の歴史」といった講座は思い切って削る。さらに、一貫性の点からは社長訓辞の原稿にも事前に目を通すのが理想だとし、場合によっては研修目的に添った内容を追加してもらうよう提案する。集合研修を経て、工場見学へ出かけるときも研修の目的を意識して現場目線の質問をリードする。その後の店舗実習でも、配属先の店長らと連絡を取り合い、新人の働きぶりに目配りを欠かさない。気になる兆候があれば現地に出向き個人面談も行う。こうした担当者の熱意の上に「人材育成は本人の向上心によって支えられている」とも述べ、新人たちが自ら成長する実践事例を紹介している。
●著者:中尾ゆうすけ ●発行:こう書房/2010年1月10日
●体裁:四六版/232頁 ●定価:1,500円(税別)
できる社員を潰す「タコ社長」
経営者として、またコンサルタントとして、300社以上の企業に関わってきた著者が見聞きした“間違った経営”を整理している。その内容はいわば「労務コンプライアンス違反事例集」とも言え、人事担当者にも参考になりそうだ。本書に指摘されている間違いとは、@有休・その他休暇、Aセクハラ、Bパワハラ、C賃金、D解雇、E退職金、F人事制度、G法令違反、の8つ。例えば、社員の休暇申請を受けて「この忙しいときによく休めるな」などと圧力をかけるとパワハラになる(時季変更権は“その日その人に休まれると会社が潰れる”というくらいの緊急性がないと有効ではないとされる)。また休暇は従業員が自由に取得できるもので、理由を問う意味は薄いとされる。こうした誤解に基づく間違いの他、セクハラなどでは良識が問われる。さらに、専門知識の不足から振替休日や残業代の算定根拠を誤って運用しているケースも危ない。労使トラブルが多発する今、間違った経営を続けていると手痛い損失を招くことになると警告している。
●著者:北村庄吾 ●発行:日本経済新聞出版社/2010年1月12日
●体裁:新書版/197頁 ●定価:850円(税別)
HRM Magazine.
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