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書評 2010.03

「日本で最も人材を育成する会社」のテキスト

 何のため(目的),誰を(ターゲット),いつ(タイミング),どうやって(プログラム),誰が(責任)育てるのかという人材育成論をマニュアルタッチで解説した内容だが,取り組み手順を淡々と並べたようなノウハウ本ではない。古今東西の理論を咀嚼し,経営の現場で実践し,時代の先を見据え,起こりうるリスクを覚悟し,科学的かつヒトの感情,組織に起こりうるコンフリクトを洞察し尽くした末の人事戦略論に昇華した良書に仕上がっている。「経験と座学」「自発と受身」「スキルとやる気」「指示と関与」「規律と動機付け」など様々なマトリクス座標を形成して人材マップを示すなど,著者の分析力・説得力には圧倒される。しかも,机上論ではなく企業内(フリービット社)で実証済み(実践中)だから目が離せない。また,同社のマネジャーに求められるコンピテンシー項目が公開されるなど資料としても一読の価値がありそうだ。人事部主導の会社とは,このような姿になるだろうという1 つのモデルを示唆したテキストといえる。

●著者:酒井 穣  ●発行:光文社/2010年1月20日
●体裁:新書版/207頁  ●定価:740円(税別)

<就活>廃止論

 一斉に採用しても3年で辞める者が3割,そして残った7割も人材流動の波に飲み込まれ,そろって定年退職を迎えることは難しい現実。ゆえに,横並びスタートの「就活」自体が意味を失っていくと著者は予測する。学生の就職難,企業の採用難は同時に深刻であり,両者間には根本的な溝があると分析している。すなわち,学生(親・学校を含む)は企業への所属を求めるのに対し,企業は入社後の活躍を期待する。この差は数量的な需給ギャップではなく,また就職・採用活動の早期化是正で解決される問題でもないと指摘している。マクロで観ると,大学と企業の断絶した現状が不自然であり,企業人が働きながら学んだり,学生がプロフェッショナルとして働いたりするなど日常的に交流の行われる状態を理想に掲げている。是正の方向として学生側には就活以前の生き方を問い,また企業側には自社にふさわしい母集団を自ら作っていくような採用アプローチを提案する。そして“ポスト就活”の模索は,最終的には子育て論や親論に帰結していくようだ。

●著者:佐藤孝治  ●発行:PHP研究所/2010年1月29日
●体裁:新書版/241頁  ●定価:740円(税別)

利益を生みだす人事改革7つの法則

 人事分野への科学的手法の導入を過激なまでに主張する論調が異色で面白い。著者に言わせれば「人事部ほど無駄なカネが眠っている組織はない」という。人事といえども投資責任があるとし,費用対効果を明らかにできなければ,原資を預けるわけにはいかないとも述べる。本書における科学とは,「相関」「回帰分析」といった数学・統計の手法を指し,常に“自社の業績を上げる”という目的に合致した施策を求めている。対象とされる領域は「採用」「次世代リーダー」「研修」「メンタルヘルス」「人事制度への不満」「経営理念」「企業価値」の7 つ。例えば採用では選考項目と業績との相関を問い,「ハキハキしている」という基準で採用するなら,それが10年後の業績にどの程度影響するかをデータで示せという。また,研修では効果測定の前に講座の重複を整理するだけで研修費用は大幅に見直せるとも指摘し,実際の削減事例を紹介する。挑発的ではあるが説得力を持ち,そこまで効果があるなら,この際,科学に委ねてみようかという気にもなる。

●著者:鈴木智之  ●発行:角川学芸出版/2010年1月30日
●体裁:四六版/279頁  ●定価:1,800円(税別)

社長、ダメな社員をクビにして会社を生き残らせましょう!

 タイトルだけ見ると“何と乱暴な”と顔をしかめたくなるところだが,特に中小企業の場合は切羽詰まった経営事情もあるようだ。現在はキャリアコンサルタントとして活躍する著者自身,かつてはリクルート社でリストラにあったと告白する。本書ではもちろん解雇法制や判例の重さを了解しており,パワハラ的,違法な辞めさせ方はNGとしている。結果的に“違法ではない範囲での退職勧奨の進め方”を様々な体験談の紹介を通してまとめた内容と言える。いわゆる退職面談では,将来のある人には「本人のため」という言葉を使う。不正行為,勤務態度,業績などで本人に明らかな“非”がある場合は,そこを突いて追い込む。ただ,もう少し準備期間があれば人事システムを作り込んでいくことも可能で,例えば「早期退職制度」「役職定年制度」「降格人事制度」などの整備が有効とされる。退職勧奨も度を超せば退職強要になる。ネガティブなテーマだが,“できれば気持ちよく辞めてもらう方向に持って行きたい”とする著者の心情には異論はない。

●著者:田邉友昭  ●発行:ビジネス社/2010年2月5日
●体裁:四六版/190頁  ●定価:1,400円

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki