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書評 2010.06

ブラック企業,世にはばかる

 「ブラック企業」というと,悪質な搾取構造をもつ暴力的で反社会的な会社を想像するかもしれない。しかし,本書で取り上げているのは意外にもどこにでもありそうな(大手優良安定企業以外の)職場事情だ。ブラックには3種類あるとし,@肉食系(肉体的・精神的に過酷な条件におかれノルマがきつい),A草食系(比較的ラクなルーティン業務ながら,処遇は相応に低く成長機会のないまま将来を奪われる),Bグレー系(一見エリートホワイトカラーの仕事に見えて,実態は,休みも取れずフル回転でアウトプットを出し続けることを要求される),を挙げている。リアルな“惨状”をいくつか紹介しつつも,これらの企業が一方的に悪者だとは結論づけていない。過剰なノルマは,顧客が安さを求める帰結であり,また,大手発注元の事情に振り回される結果だとも述べ,社会構造のゆがみを指摘する。その上で,根本的な解決にはさらなる人材流動化の促進が必要だと見て,“正社員を解雇しやすくしてはどうか”と逆転発想の改革私案で結んでいる。

●著者:蟹沢孝夫  ●発行:光文社/2010年4月20日
●体裁:新書版/205頁  ●定価:740円(税別)

社長,サービス残業代請求問題はこう解決しましょう!

 従業員(退職者)らが,未払い残業代を過去2年分にまでさかのぼって請求してくる「サービス残業訴訟時代」が到来している。従業員を信頼し誠実に処遇してきたと経営側が自負していても,ささいな行き違いから大事に至るケースは多い。事件化を容易にしている背景には,弁護士・ユニオンといった専門家の示唆や,ネットの普及があるようだ。本書に紹介されているトラブル事例では,搾取というほど悪質な事例は少なく,「営業手当てに含めていた」「休憩時間は含まれないと思っていた」「基本給ベースで算定していた」「30分単位で計算し,端数は切り捨てていた」といった知識不足や誤解に起因するものが目立つ。悪意がないだけに経営側は不本意な受け止め方をするのだが,争って勝てる見込みは低いとされる。社労士の立場から多くの現場を知る著者らは,対策の基本として,@「法令通り時間外賃金を支払う」,A「労働時間を改善する」の2点を挙げる。労基法の知識や,無駄な残業をさせない仕組み作りなどのアドバイスが役に立つはずだ。

●著者:糀谷博和/大西美佳/田中義郎  ●発行:東洋経済新報社/2010年4月22日
●体裁:四六版/203頁  ●定価:1,600円(税別)

「こんな職場じゃやってけない!」と思ったら読む本

 タイトルから職場サバイバル系の印象を抱くかもしれないが,内容は決して浅くも軽くもない。産業医である著者は,98年に年間自殺者が3万人に跳ね上がり,以降10年以上継続している事実に着目し,その異常ぶりを指摘する。人事政策の検証では,95年に日経連が発表した『新時代の「日本的経営」』を取り上げ,人材を3階層(@長期蓄積能力活用型,A高度専門能力活用型,B雇用柔軟型)に分類する考え方について「エリートの犯した過ち」と断じている。また,これに前後して導入の相次いだ成果主義,目標管理制度には「正社員削減」の意図を疑う。さらに,その後も解消しない社会経済の停滞と閉塞感を捉え,08年の『労働白書』を引用する形で「制度設計に慎重さを欠き,配属・育成の努力を怠った」と企業人事の反省点を引き出している。一方,個人には「生活の苦楽」と「こころの豊かさ」は別次元の話ではなかったかと振り返りを促す。組織・個人の両者に,見失ったものを探るプロセスを通じた“立ち位置の確認”を問いかけている。

●著者:荒井千暁  ●発行:PHP研究所/2010年5月24日
●体裁:四六版/223頁  ●定価:1,300円(税別)

65歳定年時代に伸びる会社

 50代は会社から“選別され”,自分の働き方を“選択する”世代だと著者は述べる。人間の能力は50歳を過ぎても衰えるわけではなく十分成長する余地があるとの科学的根拠を示す一方で,「定年前OB化」と表現される不活性な実態も報告する。活躍の場を失い,評価も給与も下がり,将来への希望が絶たれ,「上昇停止症候群」(一種の抑うつ状態)に陥るケースも少なくない。結局,出世を前提とする人事システムがある限りこの悲劇は避けられないと著者は看破する。解決策を探る過程では,50代以降の社員を前向きに活用する5つのアイデアを提案する(@中高年コーチ制度,A社内ダブルワーク制度,Bマイスター制度,CNEWジョブタイトル制度,D社内人材マーケット制度)。また,管理者を除いて評価制度の適用を廃止し,給料も固定給にする(あるいは本人の選択制にする)といった手段についても識者の見解を紹介しつつ考察を加えている。定年延長時代を迎え,効果のある人事制度をどう構築していくべきなのか,本書は再考の助けとなるだろう。

●著者:滝田誠一郎  ●発行:朝日新聞出版/2010年5月30日
●体裁:新書版/204頁  ●定価:700円

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki