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書評 2011.01

「不良」社員が会社を伸ばす

 大量生産型工業社会の仕組みが通用しなくなりポスト工業社会が模索される今,競争力の源泉は創意工夫と臨機応変の感性に求められるという。チームワークのスタイルも個を殺して同質性を求めるものから,異質を前提として個を活かすものへと変える必要があるとされる。そんな今こそ従来型の優等生に代えて「不良社員に注目せよ」と著者は語る。不良(元暴走族,ヤンキー,オタク)には野生の知恵があるとし,“これをやりたい”と対象にハマったときの意欲・行動力は,エリートの合理思考(損得勘定)や“やらされ感”を凌駕すると,そのポテンシャルに期待を寄せている。ただ,不良社員を活かすには仕掛けも必要であり,鍵として“承認機能”の工夫を挙げる。また,社内制度面では成果に結びつかない規則をゆるめ,加点主義評価を導入し,体験重視の教育機会を提供するなど不良社員のやる気を刺激する具体的な方法も提案している。目先のトラブルを嫌い不良を排除するのか,10年・20年先の開花に懸けるのか,人事の覚悟も問う内容といえそうだ。

●著者:太田 肇  ●発行:東洋経済新報社/2010年10月12日
●体裁:四六版/191頁  ●定価:1,300円(税別)

エグゼクティブの悪いくせ

 本書が想定する「エグゼクティブ」とは全力でグローバル規模の経営を担うようなハイクラス人材層を指す。そして世界規模での事業競争を前提とするとき日本のエグゼクティブたちには「悪いクセ」が認められると指摘している。それは,@軽薄化した現場主義,A長期的視点と単なる長時間の誤解,Bこだわりすぎた自前主義,C「企業は人なり」の先の思考停止,D率先垂範の罠,の5つだ。続けて著者は,現在進行中の経営環境を「グローバルオペレーション3.0」と位置づけ,全く新しい組織運営が求められるとし,従来と異なるリーダーを輩出するためにマインドを根本的に改革する必要があるとも述べる。さらに,その実効性を挙げるには「戦略策定」とともに「組織開発」が欠かせないとし,そこが日本のエグゼクティブたちの弱点だと看破する。弱点を補うための矯正は可能だとしつつも,早い時期から鍛えることが理想だとし,組織力を高めるために,階層別研修やアクションラーニングを止めよと,大胆で歯切れのいい提案を盛り込んでいる。

●著者:綱島邦夫  ●発行:日本経済新聞出版社/2010年11月8日
●体裁:新書版/219頁  ●定価:850円(税別)

社内失業

 会社にいてもやるべき仕事がなく時間をもてあましている20代・30代の「社内失業者」にスポットを当てた衝撃のレポートだ。与えられる業務は簡単な雑用で,余った大半の時間をネットサーフィンなどでやり過ごすという。本書にはたくさんの社内失業者の肉声が記録されているが,1,000人規模の会社,人事部門の社員も含まれている。真相を知らない外部からは「社内ニート」「フリーライダー」とレッテルを貼られ,「給料がもらえるだけいいじゃないか」と慰められることもあるが,本人たちの心情は深刻だ。仕事がないので実績が作れない。実績がないので転職ができない(履歴書に書く内容がなく,面接で語る仕事の話題もない)。年齢が若く残業がないので給料が低いままで先の見通しが立たない。驚くべきことにこうした社内失業者は2008年から2009年の1年間に推定で500万人出現した計算になるという。企業業績が劇的に回復しない限り,ほどなく社内でも抱えきれなくなるだろう。新たな社会的危機を予見する“不気味な問題作”かもしれない。

●著者:増田不三雄  ●発行:双葉社/2010年11月21日
●体裁:新書版/272頁  ●定価:838円(税別)

仕事のアマ 仕事のプロ

 「頭ひとつ抜けだした社員」と「あと一歩が足りない社員」―そのわずかな差を捉えて著者はプロとアマの違いを指摘している。コンサルタントとして数々の会社再建に携わってきた立場から,仕事のプロは組織の5%,そしてアマは40%の割合で存在すると経験値を語る。本書はその40%の人材に対し5%の側に成長するためのヒントを示唆してくれている。「できるか,できないか」を逡巡するアマに対し,プロは「やるか,やらないか」を考えるという。また,行き詰まったとき,アマは「能力の限界」を悟り,プロは「まだまだ未熟だ」と自覚するという。「シェアの奪い合い」に走るアマに対し,プロは「市場の拡大」に挑み,そのときアマは「奇策・妙案」を求め,プロは「原理・原則」を徹底する。こうした比較が88項目も並び親身のアドバイスが惜し気もなく綴られている。1人のビジネスパーソンとして反省しながら読んでもいいし,訓辞や研修のネタにも有効だろう。人事担当者ならコンピテンシーの分析指標に活用しても面白そうだ。

●著者:長谷川和廣  ●発行:祥伝社/2010年12月10日
●体裁:新書版/207頁  ●定価:760円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki