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書評 2011.06

歴史でわかるリーダーの器

 本書は,織田信長,源頼朝,東郷平八郎,西郷隆盛,井伊直弼,福沢諭吉の6人を取り上げ,人物伝のおさらいを通して,リーダーに普遍的な資質,スキル,物の考え方などを学習する教材スタイルでまとめられている。各人物のエピソードごとに「問いかけ」が整理され,読者は改めて要点の振り返りができる構成だ。主な学習ポイントは,@役割行動,A経営知識,B人間的資質,C意欲,の4点。ただし,活字を理解するだけでリーダーが育つ(リーダーになれる)わけではないと著者は繰り返し釘を刺している。すなわち,人生を懸けるような意欲や大志の有無を大前提として問い,また,責任の大きさの割には社会的にも金銭的にも報われない不条理を説き,さらには革新や変革に飛躍するとき論理の積み重ねでは説明のできない“非合理の力”が働くことも指摘している。リーダー教育の課題図書に適した1冊と思われるが,それだけではもったいない。特に歴史好きの企業人なら,あれこれ思いを馳せつつ一読しても楽しいだろう。

●著者:日沖 健  ●発行:産業能率大学出版部/2011年2月24日
●体裁:四六版/199頁  ●定価:1,500円(税別)

小さな会社の正しい給料の下げ方・人件費の減らし方

 コスト削減のために人件費に手をつけたいと考える小規模企業経営者のためのガイドブック。といってもあこぎな脱法指南ではない。要はデキる社員へは厚く(デキない社員へは減額)したいとの前提で,ルールに則った納得度の高い仕組み作りをアドバイスしている。経営側の選択肢としては,@新規採用者からの基準見直し,A今いる社員の基準見直し,B給料以外の要素の見直し,の3つを提案。とりわけ現行給与体系の見直し(減給)では,どこがどのように問題なのかを細かく分析するステップを示す。その上で,あるべき給料と現実とのギャップについては激変緩和措置を用いてソフトランディングを図っていく方法を解説している。一方で,人件費削減は会社存続のためのやむを得ない選択であるとも述べ,従業員の同意を求めつつも,どうしても同意が得られない場合は人員削減もありうると,厳しい姿勢を辞さない。利益をもたらす社員(投資)と利益を食いつぶす社員(コスト)の違いから処遇のあり方を探るアプローチは要注目だ。

●著者:井寄奈美  ●発行:日本実業出版社/2011年4月1日
●体裁:四六版/223頁  ●定価:1,500円(税別)

「キャリアアップ」のバカヤロー

 「キャリアアップ」への焦り・不安・誘惑を覚える20代・30代の社員に向けて,ご自身の体験も織り交ぜながら改めて働く意味を問う“熱い”内容に仕上がっている。需給で変動する転職相場や人材を商品として扱う紹介会社の事情を暴露しながら,いわゆる「キャリアアップ転職」が幻想であることを証明していく。例えば,「好きな仕事」は得てして処遇条件が悪く,メディアに登場する「すごい人」は粉飾された姿であると,冷静に現実を見るよう訴える。また,資格取得や自己啓発の努力は仕事のアウトプットに結びつかなければ趣味でしかなく,「自分探し」や「自己実現」も専ら個人の事情であって,転職先への訴求にはならないと,著者の語り口はシニカルかつラディカルだ。「キャリア」をキーにした話題が盛りだくさんで楽しく読めるが,最後は「うまい話はない」という基本に立ち返り,地に足をつけて仕事に励み成長を図れという直球ストライクの結論で締めている。「先が見えないくらいで焦るな」とのメッセージは迷える若手に効きそうだ。

●著者:常見陽平  ●発行:講談社/2011年4月20日
●体裁:新書版/223頁  ●定価:876円(税別)

「人事」がわかる引き継ぎノート

 初めて人事部門へ配属になった方は,いったいどのように仕事を覚えていくのだろうか。とにかくOJTで慣れるのか,片っ端から参考書を読んで猛勉強するのか。一人前の人事担当者になるには経験・知識ともに欠かせないところだが,その際,全体像(担当領域や業務の流れ)が把握できていると学習効率は格段に高くなるはずだ。その意味で,本書は人事部門の果たすべき役割と日々の実務がバランスよくまとめられ,優れた入門書といえる。まず,人事の役割を,@採用,A教育,B人事企画,C労務管理,の4つに整理して全体像を示した上で,就業規則,労働時間,休日休暇,安全衛生などの必須知識を個別に解説。さらに章を改めて,1ヵ月単位,1年単位での実務ポイントを教えてくれる。これにより,社会保険や給与の計算といった日常の実務から,雇用契約,年末調整といった年に1度のイベントまで実務の全体像が見て分かる構成になっている。また,どのページも見開きのレイアウトなので事典がわりに便利に使えそうで助かる。

●編著者:加藤幸人  ●発行:中経出版/2011年4月23日
●体裁:四六版/208頁  ●定価:1,500円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki