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書評 2011.07

「新・ぶら下がり社員」症候群

 上を目指さず,諦め,くすぶる30歳前後の一定層を著者は「新・ぶら下がり社員」と名付けている。小中学生の頃にバブル経済が崩壊し,就職氷河期を戦って疲弊し,入社後も成果主義で痛めつけられ,転職もままならない世代。「歯車でいい」と縮こまり,「私には向上心がない」と口にして憚らない。成長を望まず,組織にも期待していないが,最小限の仕事はこなして会社は辞めない。その存在が実は経年とともに会社のお荷物になっている。アメもムチも通用しないこのやっかいな連中に火を付け,目の色を変えさせる処方箋があると本書は続ける。著者らの手がける「ミッションクエスト」という研修手法がそれだ。本人の現実の姿を第三者に指摘させることでコンプレックスを刺激し,強烈な危機意識を引き出すことを通して,生きる目的や夢といった内面的価値観を掘り起こしていく。研修の成否はファシリテーターの力量に負うところが大きいわけだが,実際に“目覚めた人”の事例も紹介されていて,ストーリーとしては面白く読めるかもしれない。

●著者:吉田 実  ●発行:東洋経済新報社/2011年4月7日
●体裁:四六版/199頁  ●定価:1,500円(税別)

ケーススタディ101で読む・職場のトラブル解決読本

 労務トラブルのお助け指南書といえる内容だが,本書のターゲットはフツウの管理職の方々だ。残業,有休,欠勤,派遣社員管理などの諸テーマについて,日常の職場でありがちな相談が101も盛り込まれている。「社内行事への参加を巡る悩み(強制できるか,代休を要求された)」「サボる社員にGPS携帯を持たせられるか」「私用メールを止めさせたい」「激励のつもりで肩を叩いたらセクハラと言われた」など現代ならではの課題が多く取り上げられ,親しみやすさ抜群だ。解説はもちろん法規・判例に則り適切で,また誌面も二色刷りで見やすく編集されている。この手のガイドは読むというより事典がわりに備えておくのが一般的だが,本書の場合,各相談内容が三択クイズ形式になっていて,これに答えていくのが意外に楽しい。しかも,三択でありながら正解が2つあったり,3つとも不正解といった罠も仕掛けられていて,読者は自らの不確かな知識を改めて反省させられるのだ。人事担当者なら腕試しのつもりでトライしてみても飽きないだろう。

●著者:飯野たから 監修:齋藤敏博  ●発行:自由国民社/2011年4月9日
●体裁:四六版/224頁  ●定価:1,600円(税別)

「しきる」技術

 IT業界のプロジェクトマネジャーとして活躍してきた著者が,その体験をもとに実践的なリーダーシップ論を整理したのが本書だ。といっても,カリスマ性を備え,指示・命令でメンバーを圧倒していくようなスーパーマンの話ではない。ときに自らの弱さをオープンにし,メンバーと話し合い,ゴールを共有しながらチームを動かしていくソフトなスタイルが特徴的だ。専門性に秀でた個々の力を発揮してもらうのがリーダーの役割だとし,あるべき姿を指揮者にたとえて「自分がいちばんうまく楽器を弾ける必要はない」とも述べる。一方で,ゴールへのこだわりは揺るがず,「いつまでにいくら」という目標だけでは不十分で,達成したことによって得られる目的にまで踏み込む必要があると指摘している。本書に整理されている「しきり」のポイントは,@マインド,Aスピード,Bフェア,Cリスク管理,Dコミュニケーション技術,の5つ。いずれもフツウの職場のリーダーに実践させたいアドバイスだ。管理者教育の課題図書にも適した1冊と思われる。

●著者:克元 亮  ●発行:日本実業出版社/2011年5月1日
●体裁:新書版/191頁  ●定価:1,400円(税別)

自分を立てなおす対話

 組織で働くとき“理不尽な出来事”は山ほど体験する。何であいつが,どうしてオレが,会社は分かってない,上司の判断はおかしい,あんな部下は使えない,こんな仕事には意味がない,どうせダメだ……とネガティブな発想に凝り固まっていく。しかも人が絡む場合はロジカルに原因を突き止めても解決策を実行できないことが多い。こうした葛藤・ストレスへの対処法として本書に提案されているのが「問題をほぐす」というアプローチである。それは他者との対話を通して,思考の癖を変えることとされる。正解を求めて論理的に問題を分析するのではなく,まずは思うところを“無責任に”語る。そして聞き手もまた感想やアドバイスを“無責任に”述べていく。すると,問題点が客観視され,悩める本人は「被害者」から「主人公」に意識を変えるという展開になる。実際,本書には研修事例からリアルな発言がいくつも紹介されている。社員たちが日々フレッシュな気持ちで,より創造的に仕事に打ち込めるような企業活力を取り戻すヒントが見つかりそうだ。

●著者:加藤雅則  ●発行:日本経済新聞出版社/2011年6月1日
●体裁:四六版/239頁  ●定価:1,700円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki