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書評 2011.11

ご機嫌な職場

 先達の研究成果と科学的考察を手がかりに,職場のコミュニティ論を深掘りする著者は,企業収益を絶対とするとき,職場は“明るいほうがいい”ではなく“明るくなければいけない”と結論づける。タイトルの「ご機嫌な」とは活性化された状態を指し,活性化された組織では“学び”も促進されると関連学説を披露する。一方で,ネット社会の今,従業員らは社外のコミュニティにいくらでも参加・所属でき,しかもそれらコミュニティの質・量は仕事上のつながりを上回ると指摘。この危機的な状況下で職場がいかにして活性状態を取り戻せるのか,本書は有益なヒントを探っていく。そして,活性化にあたって注目すべきは,公式の会議体ではなく自由度の高い「非公式のコミュニケーション」だとし,社内読書会や,飲み会,クラブ活動支援などの実践事例も紹介している。筆運びはどこまでも科学的であり,懇親会(飲み会)におけるファシリテーションの分析に至ってはややコミカルにも受け取れるが,それだけ現場目線で一貫した内容であることは確かだ。

●著者:酒井 穣  ●発行:東洋経済新報社/2011年9月8日
●体裁:四六版/215頁  ●定価:1,500円(税別)

仕事をしたつもり

 「本人たちは忙しそうに動き,それを周囲も認めているが,成果が出ない」―どの組織にも見られがちな“無駄”にメスを入れた論考だ。手書きのメモで済む内容をパワーポイントに加工してプロジェクターで映し出す。こうした手間が,実は会議の成果に対して無意味であることを本書はストレートに暴き出していく。もちろん著者は,職場の上下関係や評価構造,失敗を回避したい会社員の心理といった事情は知り尽くしている。その上でなお「仕事をしたつもリーマン」からの脱出を説く。なぜなら「つもり」の姿勢は考える行為を放棄してしまうからだという。例えば「1日200件」という数字に追われると,肝心な1件ごとの中身はおろそかになる。つまり,量に走り形を流すだけでは仕事とはいえず,本質に向き合う必要があるとのメッセージだ。ただ,組織のなかで習慣を変える難しさも著者は了解している。ゆえに,「つもり」の時間を半分にし,残りは「仕事のフリ」をしながら考える時間を確保してはいかがかと,ユーモラスな提案でまとめている。

●著者:海老原嗣生  ●発行:星海社/2011年9月21日
●体裁:新書版/229頁  ●定価:820円(税別)

よくわかる希望退職と退職勧奨の実務

 戦略的事業再編や成果・能力に基づく人材登用を進めるとき,もはや一定の人員削減は避けられないとの前提で,本書は希望退職・退職勧奨の実務を解説している。業績低迷時に限らず,今の職場で適性・能力を活かせないのであれば,本人にとっても転職は合理的選択であるとし,法令・常識を順守する限り人事担当者が罪悪感を抱く必要もないと割り切る。実務面では,リストラ計画から適正人員数を算出することで余剰人員数を割り出し,退職対象者の範囲を確定していく手順が公開されている。続いて,割増金の算定方法,再就職支援サービスの提供など,退職条件の設計課題にも広く目配りされている。削減人数が多く,事前に対象者の特定が困難な場合は希望退職となり,業績やスキルの基準から合理的に対象者を特定できる場合は退職勧奨が有効だとアドバイスは的確だ。そこまで理解できてもなお躊躇や不安がよぎる場合は,巻末の『希望退職のための面談マニュアル』『退職勧奨のための面談マニュアル』が頼もしい資料になるかもしれない。

●著者:林 明文  ●発行:同文舘出版/2011年10月5日
●体裁:四六版/205頁  ●定価:2,400円(税別)

「デキるつもり」が会社を潰す

 会計学の知見から,赤字社員と黒字社員の峻別法を編み出した著者は,赤字社員の中でも「デキるつもり社員」の存在を強く警告している。問題とされる彼らの特徴の1つは都合良く数字を解釈することだ。例えば,単価が安く多く売れるからと大量仕入れを主張するが,長期的には在庫を積み上げ赤字を招いてしまう。あるいは,コストに無頓着なゆえに残業を蔓延させたり,会議を長引かせるなど,勘違いな働き方をする。そして,「デキるつもり社員」は周囲への影響力が大きいだけに,“人罪度”が高いとも指摘されている。一方,本当にデキる“人財”は,数字を行動に分解していくセンスが優れている。いくら売る必要があるのか,そのためにどこにテコ入れするのか,そのために,誰に何をどのように働き掛けていくのか,といった根拠のあるアイデアが次々に出てくる。営業の例ではアポ取りの件数は少なくても見込み客の精度が高いため受注効率がいいのだ。経営分析では分からず,人事部からも見えなかった現場の課題を見事にあぶり出す1冊といえる。

●著者:香川晋平  ●発行:中央公論新社/2011年10月10日
●体裁:新書版/239頁  ●定価:780円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki