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書評 2012.01

大学キャリアセンターのぶっちゃけ話

 複数の「大学キャリアセンター」に身を置いてきた著者は,ペンネームを用いてその内幕を本書に明かしている。ここに浮き彫りにされているのは,大学側の準備不足,就活学生の幼稚さ,企業人事部の狡猾さ,不安に駆られる保護者の姿であった。そもそもキャリアセンターは就職課の延長なのか,教育機関なのか位置づけが曖昧なまま,コンサルティング会社や非常勤カウンセラーらに丸投げにされている実態を暴露。就職課の機能では,IT化を進めた結果,情報過多に陥り個々の求人案件が埋没している矛盾も指摘している。また,教育の面では,労働観・キャリア観を育成していくのか面接訓練や作文指導をやるのかカリキュラムの方向性すら定まっていないと批判する。一方,企業の人事部に対しては「みなさんに来ていただきたい」と数を集めながら実際には上位校で門戸を絞り,平均的社員とは異なるエリートを説明会に登場させ,真相を隠蔽しているのではないかと疑う。大学職員,学生,人事部,保護者,いずれの立場からも一読が望まれる。

●著者:沢田健太  ●発行:ソフトバンククリエイティブ/2011年10月25日
●体裁:新書版/263頁  ●定価:730円(税別)

ホウレンソウはいらない!

 草食系・ゆとり世代の部下たちは“ダメ”なのではなく“違う(進化している)”のだという前提で,著者は旧型マネジャーのスキル・意識に警鐘を鳴らしている。すなわち,個別に進捗を聞いてエクセルにまとめ直したり,全員が外出先から戻るのを待ってミーティングを開いたりする非クリエイティブな動きはもはやガラパゴス化する危険性があると述べる。代わりに本書に推奨されているのが「クラウド」と「モバイル」を駆使したマネジメントだ。各自の業務状態をクラウドで共有できるようにしておけば進捗報告はいらない。また,草食系・ゆとり世代は潜在能力が高いにもかかわらず理屈が先行し,全体像が見えないと動けない特徴があり,仕事の進め方をあらかじめワークフローに整理してクラウドで共有できるようにしておけば,指示漏れも重複もなく理解も早い,と提案している。クラウドもモバイルも身近なツールになりつつある今,マネジメントスタイルの新旧交代がどのような形で起こるのか,その輪郭がおぼろげながらも見えてきそうな1冊だ。

●著者:本田直之  ●発行:日本経済新聞出版社/2011年11月9日
●体裁:四六版/191頁  ●定価:1,400円(税別)

日本人はどのように仕事をしてきたか

 戦後の動乱期から格差に揺れる現代までを“人事を変えた名著13冊”によって概観する力作。しかも,名著それぞれにつき「ダイジェスト」「書評=著者への問いかけ」「著者からの返信」という3部で構成し,立体的に論点を引き出す贅沢な編集を試みている。戦前からGHQの指導,高度成長期,安定成長期にかけては「職工制度」「電産型モデル」「職能資格制度」といったキーワードが並び,ここまでは歴史に沿って落ち着いて読める。しかし,90年代以降(バブル崩壊後)の整理に至ると読者の側もある種の緊張感を覚えるかもしれない。「失われた20年」を経て,今なお混迷が続き,決定打となる人事モデルも登場せず,恐らく歴史評価を下す段階にないからだろう。ややもすると学説(経済学・法学),政治・行政のアナウンス,マスコミ論調などに振り回され,収拾不能に陥りがちなテーマを,深く丁寧に読みやすく切り分けていく著者らのガイドの巧みさには驚くほかない。しばし時を忘れてエキサイティングにページを繰ってしまうこと請け合いだ。

●著者:海老原嗣生,荻野進介  ●発行:中央公論新社/2011年11月10日
●体裁:新書版/311頁  ●定価:880円(税別)

社畜のススメ

 やや毒気のあるタイトルからネガティブな先入観を抱くかもしれないが,本書における「社畜」とは,思考停止状態の奴隷や歯車を意味しない。「守破離」の「守」のことだと言われれば多くの読者は納得し共感するはずだ。とりわけ本書は,基礎力のないまま「個性」や「自分らしさ」にこだわり自滅する悲劇を繰り返し指摘している。「うちは個性重視の社風」「自己実現を図ってほしい」といった会社の建前論を,修業期間のうちは安易に受け入れないほうがいいとの警告でもある。すなわち,成長を前提とするなら自分で考える前に基礎知識を詰め込むプロセスが必要だと指摘し,その段階では積極的に「会社の歯車になれ」と説く。例えば,組織の論理を理解する近道であるなら「派閥に入れ」とも諭す。また,「公平な人事」とは,才気に走る者ではなく,愚直に努力する者が評価される仕組みであるとも示唆。「守・破・離,それぞれ12年」という長期のキャリア観を示し, 3年程度で焦る若手に,厳しくも温かい目線でアドバイスを綴っている。

●著者:藤本篤志  ●発行:新潮社/2011年11月20日
●体裁:新書版/192頁  ●定価:680円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki