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書評 2012.02

就職とは何か

 著者は大学の先生だけに就活の実態描写はリアルだ。就職のための留年行為を異常と指摘し,学生向けの会社案内に紹介されている「ある社員の1日」がすでに過労状態にあることを見抜いたりもする。もっとも本書は「就活ノウハウ本」などではなく,雇用実態の分析を通して就労構造の是正を探っていくアカデミックな論考であった。例えば,過労死ラインを超えるような時間延長を認めた36協定の「特別条項」を問題視し,それを受理する労基署の姿勢にも突っ込みを入れている。過労死が発生するような企業側の異常な働かせ方に疑問を呈する一方,学生側には適応力と共に抵抗力(例えば労基法の知識)も必要だとアドバイスを綴っている。非正規労働や組合の役割なども視野に入れ,縦横無尽かつ大胆に課題を拾いつつ,最終的にはシンプルな論点「まともな働き方(ディーセント・ワーク)」に帰結させ,@まともな賃金,Aまともな労働時間,Bまともな雇用,Cまともな社会保障,の4条件を訴求。労使双方に原点の確認を迫っている。

●著者:森岡孝二  ●発行:岩波書店/2011年11月18日
●体裁:新書版/223頁  ●定価:760円(税別)

泣きたくないなら労働法

 様々な体験を経て現在は社労士として活躍する著者が,一般読者向けに労働法をかみ砕いて解説した入門書といえる。内定・採用・労働時間・休暇制度から賃金・賞与・人事異動・出向・転籍・退職まで,知っておきたいポイントを要領よくピックアップして整理してくれている。例えば「法定労働時間」と「所定労働時間」の違い,「法定休日」と「所定休日」の違い,「振替休日」と「代休」の違い,「割増賃金」の計算法などややこしいところの解説はもちろんぬかりない。また,「イクメン社労士」を自認するだけあって,育児休業に対するアドバイスもリアル目線で面白い。一方,「試用期間」を認めながら「解雇制限」が厳しい法体系の齟齬や,「競業避止義務」と「職業選択の自由」の矛盾などにも“素朴な疑問”から踏み込み,線引きの難しい課題が横たわる現実も紹介している。書名の「泣きたくないなら」は労使双方に対するメッセージとされているので,企業の人事・労務担当の方も,興味に任せて目を通してみてはいかがだろう。

●著者:佐藤広一  ●発行:光文社/2011年11月20日
●体裁:新書版/207頁  ●定価:740円(税別)

小さくても「人」が集まる会社

 経営コンサルタントとして活躍する著者は,成長を遂げる企業のエンジンに改めて人材力を見つけ,「採用」が担う戦略性に注目している。劇団四季・都田建設・物語コーポレーション・本多プラスの4社の事例を取り上げ,これら企業が推進している経営戦略を縫うような筆運びで“有益な人材を見つけて活かす採用マネジメント論”を展開している。とりわけ,将来の姿から今(の採用)を考えるのが戦略だとし,現状の延長から発想したのでは成長できないと戒める。すなわち,現状の延長による人材採用を断ち切れば,社員の意識が変わり,行動が変わり,能力・スキルが向上し,効率化も進むと,中長期の効果を期待する。さらに,その効果は採用現場の取り組みだけでもたらされるものではなく,人事制度,評価制度,賃金制度,教育制度と一体で,経営サイクルに組み込んでこそ機能するとも述べている。運任せの採用を続けてきた企業にとっては,人を惹きつけ,人を集めることで成長する好循環経営のヒントがちりばめられた本書の参考余地は小さくない。

●著者:西川幸孝  ●発行:日本経済新聞出版社/2011年11月22日
●体裁:四六版/245頁  ●定価:1,700円(税別)

ディーセント・ワーク・ガーディアン

 本書は6話からなるミステリー小説。タイトルの「ディーセント・ワーク・ガーディアン」とは労働基準監督官を指している。ご承知の通り特別司法警察職員として,捜査・逮捕権を付与された立場であり,本作でも主人公・三村監督官は,労災案件の調書・供述・タレコミ電話などから,不審を嗅ぎつけ法令違反を見つけ,是正勧告や書類送検で一件落着させていく。どの案件も不況を背景にした社会矛盾が絡んでいて,「普通の人が,普通に働いて,普通に暮らせる―その普通を守る仕事」と自負する主人公の正義感はかっこいい。友人の警察官に頼まれて工場内密室変死事件やコンビニ強盗事件の謎解きに手を貸し,はたまた大臣が関与する巨大陰謀事件に巻き込まれていく物語展開などはスリリングで,エンターテインメント度も抜群だ。36協定,最低賃金,労働安全衛生といった用語が飛び交い,勤怠記録がアリバイ崩しの鍵になるようなミステリーは,文芸界の新境地を開く話題作といえるだろう。人事・労務ご担当の皆さんには文句なしにお勧め。

●著者:沢村 凛  ●発行:双葉社/2012年1月22日
●体裁:四六版/368頁  ●定価:1,700円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki