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書評 2012.03

あなたがデキる人か否かを決めるのは,人事部です。

 本書はフィクションに仮託した人事担当者の告白本だ。しかし,ややシュールな物語展開ゆえ,読みはじめは少し不安になるかもしれない。舞台はフランス系外資の「日本アララリア」。人事グループシニアマネジャー・南氏は,日頃,一般社員,人事部員,内定学生,リストラ対象者相手に,給与や評価など人事制度の“建前”を語る立場にいる。そしてセンテンスが変わると場面は一転して謎のカウンターバー「北の部屋」に。今度はママさんが,南氏の“発言の真意”を水商売トークで解説するという流れだ。例えば,南氏が会社で「キャリアパス」「評価の公平性」を語っていたとすれば,バーのママさんは「でもポジションをこなす能力と,ポジションを獲得する能力は別なのよ」「評価の公平性なんて,雨上がりの虹のようなもの」とカウンター越しにつぶやく。この調子で「成果主義」「コンピテンシー」「PIP」といったテーマに踏み込んでいくから面白い。コミカルかつ謎めいた雰囲気のうちに人事の奥深さが納得できてしまう不思議な世界に魅せられそう。

●著者:三冨 圭  ●発行:幻冬舎ルネッサンス/2012年1月20日
●体裁:四六版/200頁  ●定価:1,100円(税別)

理不尽な給料

 様々な角度から給与格差を考察する本書は,「同一労働・同一賃金」の原則に照らしたとき仕事の価値(責任・難しさ・実績)に関係のない格差を6つのパターンに分類。独自の“理不尽度”を加えて,次のようにはじき出している―@企業間格差(30%),A年齢・役職間格差(40%),B職種間格差(50%),C男女間格差(60%),D雇用間格差(70%),E官民格差(90%)。全体の概観では,この10年,勤労者の平均年収は下降の一途を辿っているものの,競争の少ない業界や公務員の世界では賃金の高止まりが目立つと分析している。また,生涯年収でみた場合,非正規労働者の限界は明白ながら,学歴別では院卒が必ずしも大卒より有利ではない現実も見つけている。もっとも著者は,理不尽な就労構造を多層的に把握しつつ,「不自然な状態はいずれ修正される」と述べ,その是正については歴史に委ねる構えだ。職業選択,キャリア開発,労働の付加価値など,考えるべき課題を示し,読者個々人には「報われるフィールドでの努力」を示唆している。

●著者:山口俊一  ●発行:ぱる出版/2012年1月22日
●体裁:四六版/208頁  ●定価:1,400円(税別)

産業医が診た! 上司のカルテ

 複数の企業で産業医を担当する著者は,相談内容の約8割がメンタルヘルス関連だと明かす。そして,その多くが職場のコミュニケーションの問題に起因している実態を受け,典型的な「上司・部下のミスマッチ」をパターン化し,対策(処方箋)を本書に整理している。まず,上司と部下のギャップは,世代の違いによるところが大きいとし,問題の起きがちなカテゴリーを6つに分類(@OJT・指示出し,A話の聴き方・報連相,Bやる気の出し方,C失敗・トラブル対処,Dフィードバック・謝罪,E中間管理職としての振る舞い)。計30にわたる日常的なシーンを再現し,上司の問題点と改善行動をまとめている。処方箋に共通しているのは,“部下を支配的に管理し仕事をやらせる”スタイルから脱却し,“仕事の管理を通して部下の成長を支援する”方向へ意識・行動を切り替えること。すなわち「ちゃんと考えろ!」と熱く叱責するより,「原因は何だろう?」と冷静に問いかける姿勢が重要だとされる。課長研修の副読本などにも適した内容だ。

●著者:吉野真人  ●発行:すばる舎リンケージ/2012年1月27日
●体裁:四六版/192頁  ●定価:1,400円(税別)

技術は真似できても,育てた社員は真似できない

 著者はご存じホッピービバレッジ社を引き継いだ三代目社長ミーナさんだ。長く低迷していた組織を,体育会系の風土改革で年商5倍によみがえらせたアイドル経営者……と思ったら,実はそれは過去の話で,現在は新ステージ「第三の創業」に奮闘中のご様子だ。勘と元気だけでは行き詰まると直感したご本人は,縁あって早大ビジネススクールに入学。MOTカリキュラムの履修中に「グレイナーモデルの仮説」と自社の課題がぴったり重なることを発見する。そこでワンマン経営の限界を悟って以降は,若手リーダーの育成に乗り出し「知的体育会系組織」づくりに日々ひた走っている。「中小企業は人財が命」と語る一連の取り組みは“老舗ベンチャー”の壮大な実験であり,本書はその実況中継ともいえる。震災不況の影響や数々の社内トラブルも隠さず公開(しかも多くは実名入り),社長の反省もストレートで潔い。面白がって読むうちにもふと「成長の源泉とは何であったか」と読者自身が考えざるをえないような,言外のパワーも秘められた1冊だ。

●著者:石渡美奈  ●発行:総合法令出版/2012年2月8日
●体裁:四六版/271頁  ●定価:1,300円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki