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書評 2012.05

雇用創造革命

 著者は潟Aイエスエフネットの社長。無知識・未経験の人材を採用し,エンジニアとして育てて派遣するITサービスが事業の柱だ。一方で,障がい者やひきこもりなど就労弱者を採用し,働く場を創造していく「20大雇用」の取り組みでも注目される。その事業モデルの1つが障がい者を中心に店舗運営する「匠カフェ」だ。オーダーミスを防ぐためにタブレット端末を活用するといったハードの工夫もさることながら,経営の真髄は信念の強さにある。「リストラはしない」「定年は撤廃」「ダイバーシティを推進する」と宣言し,雇用した人を最大限に活かせる仕事の開発に挑んでいる。採用では,普通の人(将棋の歩)が最強の戦力(金将)に化ける人間の可能性を信じ,過去は問わず履歴書も見ない。公費による保護が必要だった社会的弱者たちが働く場を得ることで納税者の立場に転換し,諦め追い詰められていた本人と家族の表情も変わるのだという。「雇用はすべてを救う」「誰もが働ける当たり前の社会を目指す」と語る著者の本気度には圧倒される。

●著者:渡邉幸義  ●発行:ダイヤモンド社/2012年3月8日
●体裁:四六版/248頁  ●定価:1,500円(税別)

会社で自由に生きる法

 短文1行ごとに改行された詩歌のような構成なので,スイスイ読めてしまう。そして「自由な会社は1つもなく,あるのは自由な働き方だけだ」と,著者のキャッチコピーはいちいち冴えている。功を焦って追い求めても,仕事の9割は失敗に終わる。そこでたまたま成功しても「調子に乗るな」と周囲からは釘を刺され,失敗してこそ「よく頑張った」と認められるのが日本の職場だと達観する。そうであるなら,仕事はまず雑用・基本の型を楽しむこと。その上で,一定の役割を果たし,文句も意見も堂々と言える居場所を確保し,「じゃあ,お前がやれ」と言われたときに引き受けられる力量を高めていけとアドバイスを綴っている。毎月決まった給与が支払われ,まとまった有給休暇も取得できるなんて,自営業や牧場主には許されない環境だと述べ,「会社を辞めて自由になる」というのは思い違いだと諭しつつ,泳ぎ方さえ分かればば会社というプールほど自由な場所はないと結論づけている。電話番やコピー取りでクサる若手社員に一読を勧めたい。

●著者:中谷彰宏  ●発行:日本経済新聞出版社/2012年3月23日
●体裁:四六版/223頁  ●定価:1,300円(税別)

これから働き始める君たちへ

 改めて肩書きを説明するまでもない著名な7人(新浪剛史氏,大竹美喜氏,北城恪太郎氏,葛西敬之氏,小宮山宏氏,奥島孝康氏,金子郁容氏)が「働くこと」について語った1冊。企画時点で想定された読者対象は大学生から新入社員と思われるが,年代を越えて刺激の得られるメッセージも数多く凝縮されている。各氏が共通して語っているのは,「学び」「挑戦」「野性」「信念」「努力」「利他」「情熱」「公共」といった価値観だ。加えて「天職は追い求めて得られるものではなく,目の前のことを継続してやりきることによって到達する」との認識でもほぼ一致している。“つまらない仕事ならそれを面白くする”“無意味な仕事ならそれをなくす取り組みをする”“就職先がなければ自分で仕事を創り出せ”と,諦めや惰性に流されがちな現役ビジネスパーソンも思わず襟を正したくなるような示唆がにじんでいる。加えて各アドバイスは各氏の半生に裏付けられており,人事部門としてはキャリア開発の研究資料としても読み応えがありそうだ。

●編著者:産経新聞社  ●発行:産経新聞出版/2012年3月30日
●体裁:四六版/215頁  ●定価:1,200円(税別)

35歳で課長になる人ならない人

 キャリアカウンセリングや研修の場で多くのビジネスパーソンと接する著者は,「35歳」こそキャリアの分岐点だと指摘する。書名の「課長」とは必ずしも役職のことではなく,一軍登用か二軍行きか戦力外追放かが決まる象徴として表現されている。また,内容は「なる人・ならない人」を2分する安易な構成でもない。人材の基礎力をアリストテレスの四大元素にならって火(意思・情熱)・風(戦略・論理)・水(愛情・絆)・土(知識・スキル)の4つに分類。各要素の強弱の程度を20の質問を通して診断する能力適性分析表も掲載。さらに,これら4つの要素の組み合わせから9つの人材タイプ(@一般職・定型業務,Aスペシャリスト,Bサポーター,C現場リーダー,Dマネージャー,Eエグゼクティブ,Fフリーランス,G起業家,H知的プロフェッショナル)を整理し,能力適性分析と重ねてキャリア開発の方向性まで示す。若手社員には自身の自己啓発ガイドとして,人事部門の方には適材適所や研修企画の参考として読んでも面白いだろう。

●著者:門田由貴子  ●発行:主婦の友社/2012年3月31日
●体裁:四六版/240頁  ●定価:1,400円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki