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書評 2012.08

経営者の大罪

 ご本業は医師という立場ながら,著者は今の日本が直面する政治経済の困難を憂い,大胆な処方箋を綴っている。いつまでも不景気から立ち直れず,国力が弱体化していく病根は「消費の主体である中間層の衰退」にあると見抜き,海外移転や給与カット,人員削減を進めてきた主要企業の経営姿勢を厳しく問い詰めている。「メイド・イン・ジャパン」のブランド価値を確立できていれば,世界市場であっても安売り競争に巻き込まれる必要はないとも述べ,円高などの環境変化のたびに右往左往する戦略性のなさを批判する。また,セイフティーネットのないところで自由競争に舵を切り自殺者を増大させたこと,最高税率を引き下げ富裕層を優遇したものの消費に回る金額は限られていたことなどを挙げて,小泉改革の欺瞞性も明らかにしている。この十数年間に日本企業の経営者たちが何を判断してきた(しなかった)のか,著者の舌鋒は鋭く胸のすく思いで読み通せる。グローバル競争の正念場はこれからであり,本書の示唆を復活戦略に生かしたいところだ。

●著者:和田秀樹  ●発行:祥伝社/2012年6月10日
●体裁:新書版/207頁  ●定価:760円(税別)

新版 人が育つ会社をつくる

 キャリア研究の第一人者である著者は,人事担当者が漠然と実感している“人が育ちにくい現状”を多角的に分析し,若手が育つ条件を本書に提示している。独自の定量調査およびインタビューの結果から,改めて若手と組織のギャップを明らかにし,企業側にはマネジメントスタイルの変更を求めている。極論すると,「企業主導」「正社員・出世モデル」「先輩・上司による指導・OJT」の3つが機能不全に陥っているとされ,コミュニケーション研修や,ローテーション,自己啓発支援などでは解決できない次元だと指摘。育成の鍵を「成長実感」に見つけ,チャレンジングな課題,コーチング的支援,健全なプレッシャーといった促進策を提案している。「辞める奴には教えない」といったOJT主体ではなく,「辞めても仕方がない」という前提でOff-JT投資を惜しまない姿勢が有効だと育成スタイルの大転換を迫る一方,若手側にも専門性への狭い思い込みや売れるスキルを焦るのではなく,幅のあるキャリア観を醸成すべきだとメッセージを綴っている。

●著者:高橋俊介  ●発行:日本経済新聞出版社/2012年6月22日
●体裁:四六版/208頁  ●定価:1,700円(税別)

プロセスにこそ価値がある

 一般に「成果志向」が過ぎるとノルマに追われ「目標疲れ」を引き起こす。一方,成果を忘れた「プロセス志向」ではそもそも組織は成り立たない。結果が出ても出なくても重圧がのしかかるプロ野球界を考えるきっかけにして,会社員レベルで真に取り組むべき課題は何かを本書は探っていく。そもそも「目標疲れ」は「目的」を見失っているケースにみられるとし,プロセスを経た結果の先に「意味」を見出せるどうかが1つの鍵だと指摘する。また,プロセスは習慣であり,「やり続けること」こそが土台を築き,自信を生み,成果への確信に近づく行為だと述べ,積み重ねによって人格が形成されるとも言い当てている。すなわち,プロセスの蓄積が裏付けのある結果をもたらし,その結果が成功・失敗ともに次の挑戦の種となり,前進のための資産になると好循環モデルを示す(何もしないことこそ負のスパイラルを招くと警告している)。「成果志向」と「プロセス志向」の二者間を深く掘り下げ,人生論・幸福論にまで言及した意欲的な論考だ。

●著者:村山 昇  ●発行:メディアファクトリー/2012年6月30日
●体裁:新書版/223頁  ●定価:740円(税別)

ソフトバンクの組織・人事戦略

 創業30周年で「300年成長し続ける」と宣言したソフトバンク社のDNA解明に挑む興味深い1冊だ。同社は人事に限っても,社員数1,800名の時点で新卒2,000名を採用するといった途方もない成長戦略に打って出ている。事業の急拡大に伴い,人事制度は毎年のように変更。思い切った事業戦略が打ち出されるたびに人事部門は先頭を切って組織作りに奔走するという。とはいえ,主要3社の人事制度は「ミッショングレード制」で統一されている。仕事基準の「ミッション定義書」に基づく等級制度を運用し,評価は毎年リセットする成果志向だ(前年のグレードは何ら保障されない)。また,同一グレード同一ランクなら同一処遇とし,役職などのしがらみなくフレキシブルな戦略配置を進めやすくしている。ツイッターやUSTREAMを活用した新卒採用の仕掛け,eラーニングを活用した社員研修の仕組みも先進的で要注目。さらに,後継社長を育成する「アカデミア」の内幕も担当者らのインタビューを通して明らかにし,読み応えのあるレポートに仕上げている。

●著者:滝田誠一郎  ●発行:労務行政/2012年7月10日
●体裁:四六版/223頁  ●定価:1,600円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki