*

HRM Magazine

人事担当者のためのウェブマガジン | Human Resource Management Magazine
HOME
 HR BOOKs
  

書評 2012.09

社員が「よく辞める」会社は成長する!

 様々な機関が公表している「若者の安定志向」という調査結果は,実は建前の反映にすぎず,デキる若手ほど本音の部分では独立やステップアップ転職に意欲的ではないかと著者は疑う。そして,定年までブラ下がるより,独立という夢のために全力で働く人材のほうがよほど信用できると,その存在を肯定的に認めている。その上で,ビジネス環境が激しく変化している今,人材を抱え込むストック型人事は企業側にとってもリスクが大きいとし,一定の代謝を前提としたフロー型人事への転換を示唆している。「2:6:2」の上位「2」の部分が卒業していけば,中位の「6」から優れた人材は育つと述べ,「巣立ちの支援」を提案。また,企業側が人材を抱え込もうとしなければ,働く側も独立を含めたタブーなきキャリアを見据えることができ,青天井のやる気が生まれるとし,独立志向の人材が目先の待遇を気にせず思い切り働く特性にも期待を寄せている。人材は5年〜10年で巣立つという前提に立てるかどうか,人事戦略の岐路が問われる論考だ。

●著者:太田 肇  ●発行:PHP研究所/2012年8月1日
●体裁:新書版/215頁  ●定価:840円(税別)

大転換する人材マネジメント

 リーダーシップ開発や人材アセスメントなど人事分野のコンサルティングで活躍する著者は,改めて本書に企業人事の抜本的な転換を訴えている。背景にあるのは「グローバル化」に象徴されるビジネス環境の変化だ。ビジネスが変われば必要とされる人材像もリーダーシップ・スタイルも変わる。経営が切実にイノベーションを求め,現場が変化対応を迫られるとき,人事部門だけが従来の延長線上に留まるなら,その存在こそボトルネックになると危機を示す。望まれるのは事業戦略にマッチした人事の実現だとし,具体的には,次代を担う人材の登用,そのための人材要件の洗い出し,その要件を満たす人材育成を挙げている。パフォーマンスに貢献する人材をいかに育成し確保していくかという,いわゆる「タレントマネジメント」を考察しつつ,並行して会社に貢献する人事部門の姿を問い続け,人事担当者の役割・能力にも踏み込んでいる(「6つのHRコンピテンシー」は要注目)。人事担当者にとっては示唆に富み,学習余地の大きい1冊。

●著者:伊東朋子  ●発行:東洋経済新報社/2012年8月9日
●体裁:四六版/158頁  ●定価:1,400円(税別)

デフレ時代の「人事評価・賃金制度」の作り方

 デフレ時代には相応の人事の仕組みがあるはずだと,本書は制度体系の見直しを提案している。デフレに伴い事業スタイルが変われば,当然,評価内容も変わるし,人件費を削るだけが能ではなく,売上げが減っても利益を確保できれば賞与支給の余地はあるといい,フラットなポジションから知恵を絞っている。また,利益に貢献し次代を担う優秀な社員の賃金は上げていくべきだとも述べ,業績連動型の仕組みづくりを目指している。もっとも制度設計自体はオーソドックスだ。総額人件費枠,定期給与改定,業績連動賞与を基本とし,さらにこれらの仕組みを支える等級制度と評価制度を整理,業種別・職種別のモデル資料も掲載している。全体にシンプル指向で,人事給与・評価制度をゼロベース,あるいは部分的に取り入れることも可能な汎用性の高い設計になっている。しかも,社員説明会の要項まで目配りが利いていて,6ヵ月で無理なくバランス良く改革を進めていける構成はありがたい。記述も一貫して平易であり,使い勝手にも配慮された良書だ。

●著者:森中謙介/山口俊一  ●発行:中央経済社/2012年8月10日
●体裁:四六版/202頁  ●定価:2,400円(税別)

20代からはじめるキャリア3.0

 年間1,000人に及ぶキャリア相談を担当し,多くの就労支援を手がける著者は,本書に新次元の働き方「キャリア3.0」を提唱している。学歴を担保に好業績の安定した会社で定年まで働くことを理想とする「キャリア1.0」は,すでに経済環境の激変を受けて幻と化したと断じる。その後に登場したMBA取得に象徴される「キャリア2.0」は,常に内外のライバルを意識し利益追求の先頭に立つ競争指向の働き方とされるが,目線が企業に留まり損得に偏るがゆえ,価値は陳腐化する運命にあると指摘する。その点で,本書が追う「キャリア3.0」は「社会のため」という大きな視点から「自律的に」働くスタイルに特徴がある。組織の一員であると同時に他者との協働に価値を見出し,会社に過度に依存しない働き方を模索するもので,いわゆるICに近い。従来の「就社」から文字通り「就職」を目指すキャリア観の転換ともいえ,働く側の意識は当然ながら,会社側の支援体制も成否の課題となりそうだ。成功モデルが顕在化してくると説得力も増すと思われる。

●著者:野津卓也  ●発行:亜紀書房/2012年8月25日
●体裁:四六版/175頁  ●定価:1,200円(税別)

HRM Magazine.

【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki