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書評 2012.10

幕末偉人に学ぶ職場のストレス対処術

 企業や学校向けに適性検査事業を手がけている著者は,幕末に活躍した人物たちの生き方を題材に,現代人向けのストレス対処法を紹介している。まず,40の質問からなる「セルフケアシート」を使ってストレスバロメーター(心理状態)を把握し,その結果から自身のメンタルリスクタイプを判定する構成だ。傾向分類は以下の4つ。@時代遅れの熱血ビジネス戦士タイプ「燃え尽き症候群」代表:久坂玄瑞,A事なかれ主義の窓際社員タイプ「意欲減退症候群」代表:山内容堂,B気分屋で切れやすい職場のクレーマータイプ「自傷・他害行為予備軍」代表:岡田以蔵,Cマイナス思考で弱気なうつっぽいタイプ「うつ病予備軍」代表:木戸孝允。−−それぞれのタイプごとに「幕末ストレスケアワード」と称した心理学的処方が示され,より前向きに生きるためのアドバイスが綴られている。高杉晋作をキーマンに据えるマニア度の高さ,さらに,西郷隆盛,坂本龍馬,勝海舟,土方歳三らお馴染みの人物らが交錯する解説展開は,幕末ファンの興味をそそって十分。

●著者:麓聡一郎  ●発行:幻冬舎メディアコンサルティング/2012年7月27日
●体裁:四六版/252頁  ●定価:1,400円(税別)

なぜあなたは,間違った人を採ってしまったのか?

 日頃からヘッドハンターとして活躍する著者は,経営者,人事部,人材紹介業界の先達,弁護士など様々な関係先から見聞きした“公式には語られない人材に関する苦労話”を本書にまとめている。書名の「間違った人」とは,明白なところでは,経歴詐称で応募してくる人,不正を働く人(不正を働いて解雇になった人)などが代表。一方,能力を見込んでいたのに期待通りのパフォーマンスを発揮できていないようなケースでは,採用側の問題点も指摘している。そもそも,2〜3回の面接で逸材を引き当てることには無理があり,「面接での好印象」に舞い上がるのではなく,入社後も半年から1年は冷静に観察する必要があると述べている。また,「人の見抜き方」については,便利な測定ツールなど存在せず,結局は「人生経験」がものを言うのではないかと推察している。ワンマン経営者にありがちな「人を見る目」の過信や失敗例も紹介しつつ,例えば,SNSの書き込みから本人の価値観をチェックするといった新しい方法も提案している。

●著者:佐藤文男  ●発行:クロスメディア・パブリッシング/2012年9月5日
●体裁:四六版/218頁  ●定価:1,480円(税別)

理想の上司は,なぜ苦しいのか

 「管理職なんかになりたくない」と口走る若手社員が増え続ける今,人の器を大きくして成長するために「あえて管理者の道に挑戦していただきたい」と本書は訴える。スタッフ時代の実績が認められて昇進するとき,たいていの人は「管理者の壁」にぶつかる。部下に指示を出して報告を求めるだけでは務まらず,実務を自分で抱え込んでも,あるいは仕事を丸投げにし放任状態に置いても,その役割は果たせない。この壁を突破するには役割の違いを理解し,過去の成功体験を捨てる覚悟がいると著者は述べる。スタッフ時代には自分の強みを活かせばよかったのだとすれば,管理者の立場では自分の弱みと向き合うことが避けられず,上級管理者では加えて“責任を楽しむ余裕”も必要だと苦難の道筋を示し,そのうえで,プロ級の管理者たちへのインタビューも交えて,「明るさ」「謙虚さ」「学習の姿勢」といった能力要件を分析・整理。まさに悩める管理者に寄り添った内容であり,人材登用リスクを引き受ける人事担当者にも有益な論考だ。

●著者:樋口弘和  ●発行:筑摩書房/2012年9月10日
●体裁:新書版/217頁  ●定価:760円(税別)

外資系の流儀

 外資系勤務の現役・OBら50人以上にインタビューを試み,ご自身のキャリアと重ねて「入門ガイド」に仕上げている。外資系の職場には特有の流儀があるとし,採用から退職までを経験ベースで生々しく描写している。例えば採用面接では「歯並び」(容姿というより“育ち”をチェック)や「肥満」(医療費コストを懸念)に厳しい事情が記述されている。採用後は,初日から一人前の言動が求められ,1週間以内に“すでに貢献している姿”をアピールできなければ無能に見られる緊張感も指摘,「外資系の職場は人を育てる場ではなく即戦力を発揮するところ」と心得を諭してくれる。人事のルールも日本企業とは違う。プロ指向が強い職場・ポジションでは「アップ・オア・アウト」の仕組みで,2〜3年で昇進か退社を迫られる。ただ,外資で働くことについては「つらかったけれど働けてよかった」といった肯定的な回答が多く,成長感・達成感は大きい様子だ。マネジメント系のアプローチではないので,肩の力を抜いて彼我の差を楽しんで読み通せる。

●著者:佐藤智恵  ●発行:新潮社/2012年9月20日
●体裁:新書版/223頁  ●定価:720円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki