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書評 2012.11

人物の本質を見極める採用面接術

 イノベーティブな事業展開が求められる今後を考えれば,新規に採用する人材は従来とは違うタイプが望まれるのは道理だ。にもかかわらず,「面接担当者の個人的体験」との比較や「一緒に仕事をしたいか」といった従来延長型の選考基準をとるケースは多い。人事部門もまた,面接をスムーズに進行させる事務方に埋没し,肝心な「将来活躍する人物の本質を見抜く面接」が実現できていないと著者は警告する。そこで,改めて人物を見極めるための面接の進め方を整理し,ノウハウを凝縮したのが本書だ。ポイントは「過去・現在・未来の整合性」を見ること。そして,質問は「未来 => 過去 => 現在」の順番で聞くことが有効だと独自のテクニックも公開している。履歴書・職務経歴書の見方の他,パーソナリティ,地頭,リーダーシップの把握では,シンプルな評価シートとともに質疑の機微を解説。客観的ながら数学には依存しない分かりやすさと汎用性,実務ベースのアドバイスが類書の群を抜いている。明日の採用活動からさっそく役立てたい内容が満載だ。

●著者:西村秋彦  ●発行:産業能率大学出版部/2012年9月30日
●体裁:四六版/183頁  ●定価:1,600円(税別)

世界で闘うためのグローバル人材マネジメント入門

 「グローバル人事」とは要するにどういうことなのか包括的な整理がそろそろ必要ではないかという絶好のタイミングで本書は登場した。記述は易しく内容は深く,しかも外資系目線ではなく日系企業人事部および日本人のメンタリティをベースに綴られているので,多くの読者は安心して読めるはずだ。構成の主要素では,グローバル人材マネジメントの全体像を示したうえで,ハード(人事・処遇に関する諸制度),ソフト(タレントマネジメント)両面から改革案を示し,著者自身がコンサルティングに関わった中国の事情も事例仕立てで紹介している。一方で,グローバル施策への取り組みに先立ち,経済情勢や歴史文化への理解も不可欠だと述べ,テクニカルなマネジメント手法を打ち出す以前にリベラルアーツ(教養)の重要性も指摘している。人材要件に換言すれば語学力の前に仕事力と人間力が問われるとのメッセージと符合する。世界を変えるような逸材を輩出できるかどうか,今が国力回復の分水嶺なのだという緊張感も伝わってくる。

●著者:吉田 寿  ●発行:日本実業出版社/2012年10月1日
●体裁:四六版/247頁  ●定価:2,600円(税別)

会社で不幸になる人,ならない人

 20代〜30代の若手社員を対象に新時代への備えを説いた働き方指南書といえる。一貫したシンプルなメッセージは「会社に依存するな」ということ。それは,安直な独立指向ではなく,むしろ安易な理由で会社を辞めず,自分の存在意義を自覚し,効率的に最大限の成果を発揮して組織に利益貢献する姿を理想としている。ただ,時代とともに諸条件は変化し,40代ともなれば自身の成長課題も明らかになってくる。そのときセカンドキャリアに挑戦できる蓄積を築けるかどうか戦略的に考えよ,との示唆だ。記述は極めて易しく,36の「勘違いリスト」に沿ってワーキングスタイルを確認できる構成になっている。ルーティン業務に習熟し,長時間残業や徹夜も厭わず,根回しや接待の気配りに長け,休日は平日の反動でダラダラ,といった働き方では全く通用しない時代が差し迫っているとし,男女年齢に関係なく上司部下の立場が入れ変わったり,突然会社が消滅したりする事態に至っても,実力を発揮していけるようポジティブなマインド形成を訴求している。

●著者:本田直之  ●発行:日本経済新聞出版社/2012年10月9日
●体裁:新書版/183頁  ●定価:850円(税別)

感情労働シンドローム

 肉体労働でも頭脳労働でもない,精神的負荷の大きい「感情労働」に注目した1冊。嫌悪や怒りなどマイナスの感情をコントロールし,笑顔のサービス提供を強いられる典型モデルは,かつては客室乗務員や看護・介護職などであった。しかし近年は,営業職や教師,さらには普通の若手社員,中高年社員らにも感情コントロールの負荷がのしかかっていると本書は報告する。例えば,営業職は自らは必ずしも推奨したくない商品を売り込む矛盾や訪問先で拒絶される苦しさにあえいでいる。また教師はモンスターペアレンツや生徒からのイジメにも耐える日々。一般の職場では,自らのキャリア形成に強くこだわる若者と相容れない組織の事情,そんな若者を部下に持ち全く尊敬されない上司の立場など様々な軋轢が生じていて,違和感・不安感・緊張感といった感情問題は臨界寸前の状態にあるとされる。常に何事にもポジティブである人格を求められ,際限のない気遣いに疲弊する窮屈さを社会的病理(シンドローム)と見抜いたややショッキングなレポートだ。

●著者:岸本裕紀子  ●発行:PHP研究所/2012年11月1日
●体裁:新書版/207頁  ●定価:760円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki