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書評 2013.01

プロ研修講師の教える技術

 コンサルタントや研修講師の立場でキャリアを積み上げてきた著者が“教え方のコツ”を披露した1冊。外部講師(コンサルタント)の立場から,あるときは毎日が忙しい現場の方々に計数管理を教え,またあるときは,年齢がはるかに上の役員クラスの人たちに事業戦略を説くなど,場数を踏んできた著者だからこそ公開できるノウハウが満載だ。“やる気があって知識・スキルもある人”から“やる気も知識・スキルもない人”までを7つのタイプに分けて講義の進め方を解説しつつ,「実はタイプ分けは嫌われる」というオチまでフォローしてくれる読者目線のスタンスが面白い。教え方の「順序」「会場の気配り」といった基礎的な条件に加えて,“大人に教える”という立場を踏まえた謙虚な姿勢にも言及。さらに「質問」の力に注目し,マイケル・サンデル教授のような高度なファシリテーションテクニックにも踏み込んでいる。著者自身が参考にしてきたという先達の知恵も多く紹介され,汎用性に優れた親身の研修講師バイブルといえそうだ。

●著者:寺沢俊哉  ●発行:ディスカヴァー・トゥエンティワン/2011年10月15日
●体裁:四六版/240頁  ●定価:1,500円(税別)

経営者のための労働組合法教室

 経営者は組合の存在に対して嫌悪や敵視ではなく,法に保障された権利を正しく理解する必要があり,そうした姿勢のほうが経営がうまくいくとのスタンスで,労働組合法の解説が綴られている。しかし,組合との関係が大事とはいうものの,法知識が不足していると過剰な便宜供与に陥り,そのことが支配介入のリスクを招くとも指摘されている。あるいは,経営者・人事担当者にもよく知られる団交応諾義務(会社は団体交渉を拒否できない)と誠実交渉義務(誠実に対応すれば合意や譲歩の義務はない)については,複数の組合があった場合に対応の差が許されるのか(特に多数派組合と少数派組合で扱いはどうなるのか)といった応用レベルにも本書の解説は詳しい。また,協力関係の視点では,対立的な「団体交渉」の前に「労使協議」という手段で実質的なコミュニケーションを図る例を紹介するなど示唆を含んだ記述も有益だ。本書を手がかりに労働組合の歴史から学習し直してもいいし,最終講の「労働組合とどうつき合うべきか」だけ目を通しても勉強になる。

●著者:大内伸哉  ●発行:経団連出版/2012年11月20日
●体裁:四六版/183頁  ●定価:1,600円(税別)

ブラック企業

 違法な労働条件で若者を働かせるブラック企業。大量に新卒を採用し,過酷なノルマを課して,使えない人材から退職に追い込む(壊れるまで酷使する)という陰惨な実態は様々なメディアで報じられている通りだ。しかし,本書はそうした個別の告発レポートではもはや抜本的な解決に限界があるとし,社会問題からの論点整理を試みている。例えば,ブラック企業がもたらすダメージは被害者個人に留まらず,その家族への影響,さらには精神疾患増大に伴う医療費,生活保護費の増大といった社会コストに積み上がっていくと分析している。第三者からすると「そんな会社,早く辞めれば?」とも思うのだが,罠に陥った本人は“非正規雇用への転落や貧困への恐怖”が呪縛になって状況を悪化させており,その点を捉えて就活指導のあり方にも課題を見出している。一方,理不尽な業務命令や長時間残業などでは,日本型雇用の特殊性に原型があるとし,すべての企業がブラック化する潜在リスクも指摘する。病んだ社会の断面から改めて雇用を再考させられる。

●著者:今野晴貴  ●発行:文藝春秋/2012年11月20日
●体裁:新書版/247頁  ●定価:770円(税別)

社長! そのやり方では訴えられます

 無断欠勤に代表される著しい職務怠慢社員は,経営コスト負担もさることながら,他の善良な社員のモチベーションに悪影響を与える存在だとして「辞めてもらうべきだ」と著者はきっぱりと主張する。一方で,退社の方法を間違うとトラブルに発展するとも警告し,「社員を円満に辞めさせる方法」を本書に指南している。悪質な社員を前にして「もう来なくていい!」と宣告しても,正しい手続きに則っていない限り退職は成立しない。また,手続き通りだとしても,本人が必ずしも納得していない場合は,会社を中傷するようなネット書き込みをするなど後のトラブルを誘発させやすい状態となる。そうであるなら,両者にとって不本意な「解雇」という手段をとらずに,感情的なしこりを残さない退職のスタイルもあるのではないかと,いくつかの手段を提案している。また,希望退職制度の導入では,「残したい人を辞めさせない方法」を同時にアドバイスしたり,退職勧奨と強要との微妙な違いに言及したりするなど,現場目線の解説も充実している。

●著者:伊藤綾子  ●発行:経済界/2012年12月6日
●体裁:新書版/223頁  ●定価:800円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki