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書評 2013.06

教育研修の教え方促進マニュアル

 企業内インストラクターが研修講師を担当する場合,社内事情や実務内容をよく知っている分だけ高い効果が期待できる。しかし,インストラクターに教えるスキルが伴わなければその効果は限定的なものにとどまるだろう。そこで,本書は社内講師の資質や姿勢に一定のガイドを示したうえで,立ち居振る舞いにまで踏み込んだ具体的な教え方を整理してくれている。まず,社内インストラクターに向いている人とは,必ずしも学歴が高い人や,話がうまい人ではないといい,知ったかぶりをせず,熱意があり探究心のある人のほうが適任だと指摘する。また,研修では「教える内容」と「教える方法」の両面が重要だとして,レッスンプランの作り方,テキストの作り方,目的別の会場レイアウト設営法,受講者を引きつける話し方,演習(グループ討議・ロールプレイング・ゲーム)の進め方,質問の受け方,研修効果の測定法などを図解入りで解説している。巻末に掲載された16枚の研修関連シート・チェックリストも応用の余地があり,便利に使えるはずだ。

●著者:平松陽一/三友祥実  ●発行:日興企画/2013年4月15日
●体裁:四六版/263頁  ●定価:2,600円(税別)

女性部下のやる気と本気を引き出す「上司のルール」

 旅行会社の女性営業職一期生からスタートし,今は社員研修の分野で活躍する著者ご自身の経験をベースに語られた“女性社員活用ガイド”だ。女性は仕事・組織より人を見る傾向があり,上司の日頃の言動に不信や嫌悪が先立つと,後でどんなに正論で指導されても「あなたには言われたくない」と背を向けてしまうと,特有のリスクを指摘する。従って,上司には外と内の両面から自身に対する“お手入れ”が必要だとアドバイスする。また,女性はライフイベントの事情から,集中して仕事に取り組むポテンシャルが高いとも分析し,そのやる気と本気を引き出すキーワードを8つ(信頼・会話・聴く・認める・ほめる・任せる・共感・注意)に整理している。さらに興味深いのが女性社員の分類で,「ポジティブタイプ」「コントロールタイプ」「アチーブメントタイプ」「ヒューマンタイプ」の4つの特徴を紹介し,有効な働きかけ方を探っている。公式には「男女の区別をしない」時代ゆえに,現実の機微から解説された本書は貴重な情報源となりそうだ。

●著者:大嶋博子  ●発行:同文舘出版/2013年5月9日
●体裁:四六版/207頁  ●定価:1,400円(税別)

部下こそ上司にリーダーシップをとれ

 「上司の8割以上は無能」と断じたピーターの法則を持ち出し,上司に期待できないのなら,部下の立場からリーダーシップを発揮し,状況を好転させてはどうかと本書は提案する。基本姿勢では「(期待できない上司であっても)馬鹿にせず持ち味を引き出すこと」がポイントだと述べる。目先の手柄は上司やメンバーにあげてしまい,結果として評判や有利な役割をいただければよしと割り切りも諭す。問題点を整理し影響力を発揮するための武器では,「MECE」や「ロジックツリー」といった手法を紹介。加えて,上司のタイプ別攻略法,中途採用者や年上の部下の巻き込み方といった現場目線での戦い方を中心に応用余地の高いノウハウを盛り込んでいる。また,表面上は年次の秩序を崩さず,一方でグローバルで戦えるドラスチックな人事構想を模索する「人事の裏側」を暴露し,“このまま上司と共にお払い箱になるか,下からのリーダーシップで戦う準備を整えるか”と読者にアクションを迫る。力量を発揮できずにクサる若手にはこっそり手渡したい1冊。

●著者:松本利明  ●発行:クロスメディア・パブリッシング/2013年5月11日
●体裁:四六版/223頁  ●定価:1,380円(税別)

非情の常時リストラ

 「人員削減策」といえば,中高年がターゲットになり,大幅赤字などの局面で発表される緊急措置だったはずだが,今は対象年齢が下がり,しかも成績下位者を定期的に入れ替えていく“日常化”の動きがみられるという。かつては「座敷牢」,最近では「追い出し部屋」や「PIP」などといわれる退職勧奨の動向を押さえつつ,本書はバブル崩壊後の企業人事を俯瞰している。その過程では企業側の内部資料をもとにした精緻なリストラ手順を紹介する一方,どうしても承服できない従業員側には「ICレコーダーを胸ポケットに忍ばせる」などの防衛策も提案する。さらに章を改め,採用段階からの「学歴(学校間)」格差の実態,ポスト不足やグローバル対応に伴う「賃金格差」の真相をとらえ,著者は「いよいよ選別の時代に入った」と論じる。確かにこの20年を振り返ると,産業界全体の構造改革が進み,解雇規制緩和法案をセットにして,その「選別」をより確定的にしていくシナリオがはっきり見えてくる。やはり「中流社会」は幻想であったか……。

●著者:溝上憲文  ●発行:文藝春秋/2013年5月20日
●体裁:新書版/235頁  ●定価:770円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki