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書評 2013.07

実践ファシリテーション技法

 報告会にとどまる退屈な会議,上位者の独演会と変わらぬ白けた会議,結論が決まっているのにアリバイ作りのために招集される不毛な会議などの不活性を退け,参加者個々の思いを引き出し,討議を盛り上げ,有意義な場に全体をリードしていくのがファシリテーションの機能だ。会議に限らず,日常の問題解決,中長期の組織開発,プロジェクトの推進などでもファシリテーションの力量が成否を左右する。ファシリテーターには,コンテンツ(課題の内容)とプロセス(進め方)を峻別する冷静さとともに,発言者の趣旨を整理し,他者の意見を誘い出し,参加者を巻き込んで最終的に合意形成を促進させていくパワーが欠かせない。本書は,こうした機微に至る技法を30に分類し,ミニ事例も交えながらノウハウを公開している。ポジティブな環境を作り,アイデアを量産させ,組織のエンジンを前向きに推進させる「パス回しの司令塔」がいかに重要な存在か改めて気づかされる。と同時に,優秀なファシリテーターをどうやって育成していくか,そこが悩ましい。

●著者:堀 公俊  ●発行:経団連出版/2013年5月20日
●体裁:四六版/159頁  ●定価:1,200円(税別)

ダイアローグ型人事制度のすすめ

 「戦略浸透会議」「人材育成会議」の2本を柱に“機能する人事制度”を作り込んでいく方法を詳述している。まず,経営戦略を社内に落とし込んだり,OJT,Off-JTを超えて社員を成長させたりするには,十分な対話のプロセスが不可欠だと指摘し,人事部から経営改革を仕掛けるフレームワークを提示している。一例では3年後の組織図を描くことで,誰をいつまでにどのレベルまで育成する必要があるかを幹部らで共有する場を持つよう提案。人事制度の作り方では,役割基準の等級制度を基本にしつつ,昇降格のある柔軟性を確保し,かつ社員が安定的に成長実感をもって働けるよう現実的な設計を示している。給与制度では「ペイポリシー」を社内に公開し,会社と社員双方の成長のための人件費コントロールを訴える。一方で育成型の評価と賃金査定との連動を薄めた運用をアドバイスするなど整合性への配慮もぬかりない。今ある制度の見直しというより,ゼロベースで立て直すくらいの覚悟があると,導入効果もよりいっそう大きくなるものと推察される。

●著者:島森俊央/吉岡利之  ●発行:生産性労働情報センター/2013年5月30日
●体裁:四六版/181頁  ●定価:2,000円(税別)

就業規則はこう使え

 「就業規則」に関する解説書では会社側の運営ノウハウをガイドしたものが目立つが,本書は従業員および職場の上司レベルでの活用を前提に記述している点で特徴的だ。従業員目線といっても「就業規則を守りましょう」とか「就業規則を武器に戦いましょう」といった単純化ではなく,白黒の判断に迷うリアリティのある「事件簿」(ミニ事例)を20ケース示し,本人・上司の立場を分けてベストな解決策を探る構成になっている。扱うテーマは採用から退職までと広く,さらに「こころの病」「セクハラ・パワハラ」「育児・介護」など新しい課題も取り上げている。日常化している持ち帰り残業や,試用期間中にミスが続く新卒社員の扱い,中途採用者の能力不足を理由とする解雇など,微妙な問題については人事のプロの方にも興味深いポイントと思われる。問題解決の根拠では,単に「就業規則に書いてあるから」ではなく,会社組織で働く立場から条文の背景を解釈するよう深慮を求めるなど,易しい記述とは裏腹に本質への言及は深く鋭い。

●著者:杉山秀文  ●発行:労働調査会/2013年5月31日
●体裁:新書版/225頁  ●定価:952円(税別)

ニッポンのグローバル人財教本

 外務省出身の著者が熱く語る本書は,そのタイトル「ニッポンの」という部分に重要な示唆が込められている。海外シフトとグローバル人財がセットになって流行のように語られるとき,それは本当に日本企業(本社)の利益を前提にした話なのかと問う。すなわち,海外有名ビジネススクールが育成しているのは「無国籍ハイ・スペックな人財」であって,日本企業のニーズとは原点が違うのではないかと盲点を突く。例えば,CEOが全権を握り,リーダーとスタッフを2分するような経営モデルに齟齬があるなら,その違いはしっかり見極めておくべきだと釘を差す。また,グローバルとドメスティックをつなぐ人財に求められているのは語学以上に意思疎通を図る力だとし,情報リテラシーとコミュニケーションのセンスを磨くよう諭している。グローバル人財の課題は,世界の様々な動きと不可分であることから金融や資源を巡るマクロの見通しにも踏み込み,究極的には“欧米主導のコンセプトからの脱却”を訴求するなど論考のスケールは大きい。

●著者:原田武夫  ●発行:飛鳥新社/2013年6月9日
●体裁:四六版/243頁  ●定価:1,333円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki