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書評 2013.10

なるべく嫌われない叱り方

 上司たちが日頃の職場管理で滅入るのが「叱る」という行為だろう。通常は嫌われ役を承知で指導に当たっているはずだが,本書は心理学の知見を総動員し,(できるだけ)嫌われないで叱る(部下の行動を改善させる)方法を探っている。キモは,自分が感情的にならないポジションに立つことだ。その点で,一般に知られている「別室で叱る」というやり方に反して「皆の前で叱る」方法も一理ある(周囲の目があるので抑制が効く)と提案している。「間違いはすぐにその場で叱る」という一般原則は認めつつも,ケースによっては,あえて失敗を受け入れ,後から整理して叱るほうが“売り言葉に買い言葉”の不毛は避けられるとも述べている。冷静さと同時にポジティブな姿勢も重要視し,“ダメだし”を重ねるより“期待をかける”ほうがいい結果につながる事例を紹介している。命令形(〜しろ)より提案型(〜してはどうか),長い説教より改善してほしいことを一言で告げる,といった有益な手法が多数盛り込まれ,いくつかは試したくなるはずだ。

●著者:内藤誼人  ●発行:PHP研究所/2013年8月30日
●体裁:新書版/181頁  ●定価:820円(税別)

3年後,残る人 あぶれる人

 ボーダーレスなビジネス環境下で,人材のユニークさをいかに強化して生き残っていくかという「強味論」が本書の論点だ。ルーティン業務や社内限定のスキルは,ロボットや新興国の労働力に取り込まれる(安い賃金に据え置かれる)とし,「1万人に1人」の代替不能な人材を目指せと背中を押す。といっても過酷な消耗戦を恐れる必要はなく,鍵は「複数の専門性」とそれを「つなぐ力」にあると種を明かす。3〜5年で身につく専門性は100人に1人のレベルだが,例えば2つの強味・専門性を持てば,乗じて「1万に1人」の存在になれるという計算だ。その組み合わせの要素では,複数の「職種」はもちろん,「職務」「地域」「語学」「リーダーシップ」,はたまた「失敗ばかりするが,それをさらけ出せる」「心配性ゆえにリスクを洗い出せる」といった性格もユニークさを支える強味になると指摘。1つの領域を体系的にマスターできれば,他の専門性の獲得も加速度的に進むとし,目標を立て習慣に落とし込み行動するところまで勇気づけてくれる。

●著者:キャメル・ヤマモト  ●発行:日本実業出版社/2013年9月1日
●体裁:四六版/247頁  ●定価:1,400円(税別)

多様性を活かすダイバーシティ経営

 「女性活用」とイコールで語られがちな「ダイバーシティ経営」につき,本書は歴史からひもといて概観するとともに,企業経営に取り入れる際の推進ポイントを整理している。歴史といっても米国では公民権運動(1964),日本では勤労婦人福祉法(1972)あたりがスタートで,本格化するのは男女共同参画社会基本法(1999)以降とされる。解説領域は,「性別(男女均等)」のほか,「年齢(世代間ギャップ)」「人種・国籍(グローバル)」「勤務形態(正規・非正規)」「障害者」と幅広い。一方,奥行では,法令遵守や福祉の観点からやむをえず対応する「守りの段階」はすでに過ぎ,人材の多様性を競争優位の源泉・強味として経営に生かす「攻めの段階」に来ているとステージを示す。職場意識に換言すれば,マイノリティを特別扱いするのではなく相互の違いを理解し,合理的な配慮を用意したうえで存在を認め合う関係性の示唆といえる。能力開発,社内制度,管理者教育ほか,いずれのテーマも人事政策に重なり,改めて状況確認を迫られそうな内容だ。

●著者:荒金雅子  ●発行:日本規格協会/2013年9月5日
●体裁:新書版/215頁  ●定価:1,300円(税別)

お子様上司の時代

 相談を持ちかけると自慢話が続き,最後は「いろいろあるけど,がんばれ」で締めくくる上司の説教は,今の若手には何ら有効性を持たないという。部下は“上から目線”を嫌悪し,あるいは,頭ごなしの正論には出社できないほどに傷ついてしまう。上司=部下間のコミュニケーションが崩壊してしまった背景には,そもそも,理論より気分で動く根深い社会構造があり,加えて就職の瞬間までお客様として育てられてしまう若者の生育過程も影響してると著者は見抜く。そのうえで,“気づいてほしい,構ってほしい”と甘える部下たちに上司は何ができるのかを考えたとき,「管理」ではなく「サポート」がポイントになるとして,「ナラティブ・コーチング」の機能に注目する。すなわち,上司が自分の感情で熱弁をふるうのではなく,冷静かつポジティブな姿勢を保ちながら,積極的傾聴を働きかけ,部下自身に語らせる。部下は,自ら語ることで状況が整理され,問題点に気づき,やる気を高めていけるというシナリオだ。……やはり,そこまでしないとダメか。

●著者:榎本博明  ●発行:日本経済新聞出版社/2013年9月9日
●体裁:新書版/223頁  ●定価:850円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki