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書評 2013.11

会社で生きることを決めた君へ

 「ビジネスマンの勝負は50代」との前提で40代後半以降の会社員に向けて著者は経験ベースのアドバイスを綴っている。ライフスタイルが変化し,体力も限られる中年社員には,365日24時間集中力を発揮することなど無理だとし,効率よく成果を出していく知恵を求める。「30代までがむしゃらに,40代以降はしなやかに」とも表現しているが,それは“要領の良さ”を訴求する安っぽさとは無縁だ。経験を磨き,無駄な動きをせず,計画的に最適な手を打てとの指摘は,成り行き・思いつきで仕事をしてきた方にはむしろ厳しく映るはずだ。「To do とTo beの違いがマネジャーとリーダーの違い」「逆境で腐るか,それを踏み台にして這い上がるかは本人次第」「楽観的な努力家を目指せ」など,生き方への示唆も深い。若手向けの啓発本があふれる今,40代以降の中間管理職のため指南書は説得力を伴って書ける方が少ないだけに貴重な存在だ。「運命を引き受けてその中でがんばる」との著者ご自身のモットーは,全国の中年社員に共感されるだろう。

●著者:佐々木常夫  ●発行:PHP研究所/2013年10月2日
●体裁:新書版/189頁  ●定価:800円(税別)

やわらかな雇用成長戦略

 経済学者という自由な立場から,著者は様々な提言を本書に盛り込んでいる。「成長戦略とは雇用のこと」「雇用は守る対象ではなく攻めてこそ意味がある」との確信に従って「多様性」をキーに持論の展開を試みている。その解説過程では,例えば“キャバ嬢”の働き方に注目する。すなわち,掛け持ちの職業に就くことで得られるキャリアの幅,柔軟な出勤時間,チーム力の醸成,本業とのシナジー効果などのメリットを挙げている。また,百貨店販売員が醸し出す“オーラ”にも労働価値の本質を見つけ,空気を読むのは間違いで,場を創ることがポイントだと立証に挑む。他にも,“婚活と結婚”の関係に重ね,誤った就活がその後の職業生活を不幸にするとして「シュウカツ廃止論」を訴え,はたまた,短期失業者を重症な長期失業者に変貌させ,かつ企業の成長機会を奪うとして「雇用調整助成金の罪」も暴く。教育や雇用の問題を考える材料をかなりかみ砕いて提供してくれているので,読む側もできるだけ“やわらかな頭”で臨み,味わいを深めたいところ。

●著者:小幡 績  ●発行:KADOKAWA/2013年10月10日
●体裁:新書版/237頁  ●定価:781円(税別)

普通に働け

 書名こそ命令形だが,中身は必ずしも読者にアクションを迫るような説教ではない。デキる人のやり方,外資のスタイル,グローバルスタンダード,ノマドワークなど,様々な“新しい働き方”に関する情報が行き交う今,改めて立ち返るべき大事なポイントは何かを示唆するタイトルと思われる。「○○は崩壊した」「○○が劇的に変わった」と喧伝される現実を冷静に見ると,(一部は事実ながら)全体としてはそう簡単に崩壊も変化もしていないではないかと,ときにデータを持ち出して検証を試みる。つまり,労働・雇用の問題以前にメディアリテラシーの理解が不可欠だとの指摘が本書では一定のウェイトを占め,その点が興味深く新鮮だ。「普通」の定義を巡る不毛な問答は巧みに回避し,「社畜」「ブラック企業」「青い鳥症候群」「島耕作」「ガンダム」など外周を寄り道するようにして立体的に核心に迫っていく構成も面白い。メディアの情報で不安を煽られるのではなく,普通に働いて築き上げる結果がキャリアになるのだと,安心感を諭してくれる1冊。

●著者:常見陽平  ●発行:イースト・プレス/2013年10月15日
●体裁:新書版/239頁  ●定価:860円(税別)

どんな人でも一流に育つしくみ

 マクドナルドのハンバーガー大学学長からユニクロ大学の部長職を経て,現在は独立してサービス業の店長・社員教育を手がける著者が人財育成の極意を語っている。サービス業では「人を選べる時代は終わった」といい,だからこそ「素質不問」でレベルの高い人財の早期育成が求められると業界事情を明かす。採用環境が厳しくても時給条件で釣る必要はなく,“成長できる楽しさ”があればパート・アルバイトも簡単には辞めず,離職率が抑えられればコストメリットも生まれると,店舗運営の妙味に触れる。一方,経営の立場からは「ツールとルールの重要性」を指摘し,ツールに相当する評価制度は「人財育成の最大の武器」とまで言い切る。実際,本書に公開された店長用・アルバイト用の2種の評価シートはシンプルながら(シンプルゆえに)参考余地は大きそうだ。評価の運用は理念浸透の機会であり店長を鍛えるOJTの場でもあるとし,マクドナルド約3,000店,ユニクロ約850店で徹底してきた競争力を支えるコア・コンピタンスに迫っている。

●著者:有本 均  ●発行:商業界/2013年10月17日
●体裁:四六版/184頁  ●定価:1,500円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki