書評 2013.12
病んだ部下とのつきあい方
あらゆる職場で多発する“心の病”の現実を精神科医の著者はケーススタディで示しながら解説していく。従来から指摘されてきた「責任感が強く」「まじめな人」だけではなく,今は「普通の人」が心を病む時代だと著者は危機感を示す。時代の変化とともに症状も多様化し,典型的な「うつ」や話題の「新型うつ」以外に,「双極タイプ」「コミュニケーション障害」「自己中心タイプ」「摂食障害」など14にわたる症例を紹介している。予防の基本は「食事・睡眠・運動」と強調する一方,罹患してしまった場合は,「腹を決めて休養することが大事」とも述べている。限られた有給休暇でやり過ごそうとしてかえって不安感を増大させたり,自宅療養で引きこもってしまったりするよりは,休職を受け入れて入院してしまうのも有効な選択肢だと諭す。部下が病んでいるかどうかは遅刻や言動などの事実を押さえ,勝手な診断は下さず,健康を気遣うスタンスから医療につなぐのが役割だとし,「部下を病ませないための10のヒント」を整理している。
●著者:西多昌規 ●発行:中央公論新社/2013年10月10日
●体裁:新書版/239頁 ●定価:780円(税別)
部長の資格
上級管理者のアセスメントに長く携わってきた著者は「部長を見れば会社が分かる」と語る。本書ではその蓄積された知見に基づき「困った部長」を4 グループ18タイプに分類している。改善を重ねる・円満にまとめる・強引に命令する・前例を踏襲する……といった従来見られたマネジメントスタイルは,これからの時代には通用せず,今後は,平時とは違う力(ゼロベースで価値創造を担う力)が求められると見通す。さらに,他責型・優柔不断型・ヒラメ型など「困った部長」への対処では「部署横断で勉強会を立ち上げる」「複線ルートを築く」といったクーデターにも似た方法や,「反面教師として学習する(にとどめる)」といったうまい逃げ方も提案されていて面白い。部長職は学歴・資格では務まらないとしたうえで,章を改め「困った部長」から「できる部長」へ変わるための学習ステップを事例を交えて解説。アセスメントに裏付けられた能力分析は精緻で,資料性も十分だ。人材開発の任にあたる読者にはリアル感を伴って興味深く読めるはずだ。
●著者:米田 巖 ●発行:講談社/2013年11月20日
●体裁:新書版/227頁 ●定価:760円(税別)
あなたの年収は1分で決まる
本のタイトルはともかく中身は「適切で効果的な話し方マニュアル」とでも呼ぶべき内容だ。テレビ局アナウンサーから独立して,年間2,000人にも及ぶ受講者に話し方を指導している著者は「話し方と稼ぐ力は正比例している」との確信を持つ。営業活動でもプレゼンでも,ダラダラ・支離滅裂・脱線だらけの話し方ではビジネスにならない。一方,印象的な言葉で・シンプルに・力強く語ることができれば,短時間に商談が決まる確率は高くなる。稼いでいる人こそ相手を見抜く力があり,キーマンに認めてもらうことで自分も稼げるようになるとの因果関係を説いている。上手な話し方のスキルは訓練次第で誰にでも身につけられるとしつつ,ボイストレーニングで「いい声」を鍛える努力とは別の課題だとも述べる。すなわち,「要するに何か」を絞り込む論理的思考力,それを適切に伝達する力の2 つが欠かせないとして,話し方の原則,組み立て方ほか,幾多のテクニックを本書に公開している。企業研修に「話し方」を組み入れてもいいかもしれない。
●著者:三橋泰介 ●発行:日本経済新聞出版社/2013年11月22日
●体裁:四六版/191頁 ●定価:1,500円(税別)
ブラック企業ビジネス
ブラック企業に荷担する一部の弁護士や社労士の存在を本書は「ブラック士業」と名付けて,彼らの実態を暴き出している。例えば“団体交渉には応じる”といった人事・労務関係者には自明のはずの法規についても,ブラック士業たちはあえて“曲解”を試み,解決の引き延ばしを図るという。その真意は2つ。1つは不毛に事態を長引かせ,高額の裁判費用を見せつけることで労働者側の“諦め”を誘う作戦。もう1つは,依頼主である企業側に“一歩も引かず闘っているポーズ”を示すためだという。なかには極めて悪質で,読んでいるだけでこちらの体調が悪くなりそうな事例も紹介されているが,一方でどこか滑稽な印象もぬぐえない。恐らく,企業側もしっかり士業の餌食になっているからだろう(敗訴しても弁護士側には着手金はじめ訴訟費用がたっぷり手に入る)。抜本的な解決策では,司法制度の見直し,ビジネスとは違う次元での労働問題専門家の育成,学生時代からのワークルール教育などを訴え,スケールの大きな構造改革を求めている。
●著者:今野晴貴 ●発行:朝日新聞出版/2013年11月30日
●体裁:新書版/231頁 ●定価:760円(税別)
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