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書評 2014.05

トラブルにならない「会社に有利な」ルールの作り方

 このところ労使間でトラブルの起きがちな4テーマ(@労働時間,A給与,B採用,C解雇)を柱に労働法規を整理した1冊。“会社に有利な”とうたってはいるものの,それは中小企業の社長さんに目線をそろえたという意味であり,法規の曲解を試みるブラック指南とは次元が異なる(むしろ脱法が明らかなブラック化を回避するための知恵を披露した内容だ)。例えば,8時間労働という原則はあるものの,「36協定」を結んだり,「見なし残業代」を導入するなどして現実に即した「例外」は認められると述べる。一方で,残業代を支給していたとしても,時間外労働が月80時間を超えるような状況は労働安全衛生の観点から「デッドライン」だとし,即時の是正を促している。労働法に縛られ窮屈な思いをするのではなく,正しい知識理解に基づく運用で法規を使いこなしていく余裕を訴求するスタンスといえる。試用期間の扱いや,労働日・休日の考え方などの解説は極めて具体的で,企業人事の立場からは知識確認に手応えの得られるレベルと思われる。

●著者:井寄奈美  ●発行:日本実業出版社/2014年3月1日
●体裁:四六版/207頁  ●定価:1,500円(税別)

企業の人事力

 日本企業の経営を概観するとき,改めて「人事」は遅れた分野だと著者は語る。批判の矛先は,評価・教育・人員構成・役員人事など多方面に及び,従来型人事の功罪に片っ端から白黒をつけていく歯切れの良さが際立つ。例えば,評価の精度が高ければ「2:6:2」の割合なんかに縛られる必要は全くないという。あるいは,「自律型人材の育成」を掲げる会社こそ社員に自律されたら困る経営をしていないかと疑う。「うちの社員には自主性がない」と嘆く経営陣には「そもそも経営計画に魅力がないのでは?」と返し,役員の本気度を鋭く問う。今の人事には「数の増減をタブー視しない合理的な技術」が欠落していると述べ,痛みが伴っても必要な構造改革は断行すべきだと言い切る。同時に,その改革を担う次代の人事部長ポストに社内人材からの登用が期待できない不幸を指摘し,人事部門のあり方にも猛省を迫っている。現状維持派には辛口に映るかもしれないが,これからの人事課題を把握するうえで,本書ほどうってつけの参考書を他に知らない。

●著者:林 明文  ●発行:ダイヤモンド社/2014年3月13日
●体裁:四六版/211頁  ●定価:1,500円(税別)

スイスイ出世する人,デキるのに不遇な人

 夜の銀座に30年 −− 話題のママが語る“出世する人・しない人”の人材論が面白い。つまり仕事がデキても,みるみる偉くなる人と,全くそうならない人とでは,特徴的な差があるというのだ。例えば,出世する人は風邪をひかない。仕事への緊張感があり,健康管理もできている証拠だとされる。よく寝る人も時間の使い方がうまく,メンタルタフネスがあると分析している(睡眠を削ってまで残業したり,不安で寝付けないような人は出世しない)。また,酔っても人の悪口を言わず,上司にも警戒されない素直で明るいキャラは出世する一方,損得勘定で動くドライな人は,「仕事はデキても人望はない」と見抜く。さらには,「出世したい人」の願望は叶わず,「出世して○○したい」というビジョンのある人は成功するとの考察も鋭い。他にも「決断する人」「リスクを取れる人」「酒の飲み方に品がある人」などいくつか着眼点が紹介され,極めれば“粋”と“無粋”の差となるようだ。ちなみに「人事部もママの眼力に学べ」なんてオチは無粋になるのでご注意。

●著者:伊藤由美  ●発行:ワニブックス/2014年4月25日
●体裁:新書版/176頁  ●定価:800円(税別)

レジリエンスビルディング

 ストレスに負けずに“しなやかに回復する力”を「レジリエンス」と定義づけ,人と組織の両面から強化していく取り組みをガイドしている。海外進出や新事業への展開など環境変化が避けられない状況であるなら,その変化を当然のこととして受け入れ,成長の糧にしていく強さが個人にも組織にも求められるとの前提に立っている。不調を予防する(マイナスをゼロにする)メンタルヘルスでは足らず,ポジティブ心理学の知見を借りて,プラス志向の価値(幸福感)を意識したアクションを見据えている点も特徴の1つだ。ビジネスパーソン向けには,@信念,A人間関係,B考え方,C専念する力,D自己コントロール,E良い習慣,の6つの学習要素を示し,これらを磨き上げて強化するステップを解説。内外の事例やインタビューを交え,先行する企業の導入ストーリーも紹介されているので,読者の理解は容易だろう。「鉄や石ではなく竹のような柔軟性」と示唆されている“レジリエンス”のスキルは,混迷する時代ゆえに注目に値する。

●著者:ピースマインド・イープ  ●発行:英治出版/2014年4月30日
●体裁:四六版/205頁  ●定価:2,400円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki