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書評 2014.06

ブラック企業経営者の本音

 いわゆるブラック企業問題で加害者とされる立場の経営者のべ100人に3年の時間をかけて取材したレポート。人事・労務分野の「残業代未払い」「長時間労働」といったレベルではなく,「洗脳」とでもいうべき人格改造の領域に踏み込んでいる点で内容は不気味かつショッキングだ。例えば,従順で真面目で責任感のある新人ほどカモになる事例では,入社早々,理不尽な扱いを受け,不安感から経営者の顔色をうかがうようになる。追い打ちをかけるように先輩社員たちから指導を受け“おかしいのは自分だ”と思い込まされていく。法令に対する無知や不注意の結果,図らずもブラック化してしまったという是正・改善の余地のある経営ではなく,採用のはじめから組織的・計画的に搾取の最大効果を計算し尽くし対象者を追い詰めていく悪徳ぶりには「人」の次元で嫌悪感が先立ってしまう。そんな会社に捕まってしまった場合は,さっさと抜け出すのが一番だとし,「ブラック企業を使い捨てにする」したたかさを読者に示唆する記述がかろうじて救いだ。

●著者:秋山謙一郎  ●発行:扶桑社/2014年3月1日
●体裁:新書版/184頁  ●定価:740円(税別)

人と組織を変える自己効力

 単に豊富な知識や優れたスキルを備えているということではなく,「自分は(その行動を)やり遂げられる」と肯定的に判断できる力が「自己効力」だと著者は述べる(流行の“根拠のない自信”とは少し異なる)。未知の分野にも臆せず挑戦し,自らモチベーションを生みだし高めていく源泉としてアセスメントの領域でもしばしば注目される心理要素だ。本書は,その「自己効力」につき,海外での先行研究をひもときつつ,「職務行動」「教育訓練」「リーダーシップ」との相関関係の解明を試みている。基本的には学術的アプローチによる整理なので,職場での部下指導や研修プログラムの設計といった企業実務の形でブレイクダウンされているわけではないが,「職務業績」をもたらす「職務行動」が何によって導かれるのかはじれったいほどに終始興味を誘われる。困難な状況にあっても積極的に課題に取り組むハイポテンシャル人材が,どのような環境で出現するのか,腰を据えた精読を重ねて組織マネジメントのヒントに活かせればベストだ。

●著者:林 伸二  ●発行:同文舘出版/2014年4月25日
●体裁:四六版/199頁  ●定価:1,700円(税別)

上司になってはいけない人たち

 自分の仕事が手一杯で部下に向き合わなかったり,“見守る”はずが“見放すだけ”だったりと,「いまどきの上司」には部下を育成する力が欠けているのではないかと疑う著者は,内外および独自のリーダー論を縦横に語っている。ダメな上司をタイプ別に分類し,傾向と対策,是正の処方箋まで示しつつ,ダメぶりをたたくというより,叱咤激励するスタンスなのでどのページも勉強になる。部下を育成する意思のない放任上司も問題ながら,パワハラ同然に部下を潰しにかかったり,不正に荷担させたりするひどい上司も登場する。なかには,本人の実務スキルが有能すぎるゆえ上司としてはダメな残念なケースもあり,部下の面倒を見ない“優秀な専門職”より,部下の面倒を見る“並の管理者”のほうが成長の機会を提供しているという点で“マシ”だと,逆説的な真実を見出している着眼も面白い。飲みニケーションに頼るのではなく,仕事を通じて正面から部下に向き合うために何をするのが上司の役割なのか,リアリティーを伴って理解が進む1冊。

●著者:本田有明  ●発行:PHP研究所/2014年5月2日
●体裁:新書版/223頁  ●定価:840円(税別)

駆け出しマネジャーの成長論

 プレイヤーからマネジャーへの移行期(=トランジション)では誰しも少なからず混乱や不安に悩まされる。そんな新任管理者(=駆け出しマネジャー)のために科学的な知見を動員して状況整理を綴ったのが本書だ。マネジャー経験者へのアンケート調査などから新任マネジャーが乗り越えるべき壁を7つ(@部下育成,A目標咀嚼,B政治交渉,C多様な人材活用,D意思決定,Eマインド維持,Fプレイヤー・マネジャーのバランス)に分類し,学びの指針をガイドしている。一見すると過保護にも思える丁寧さだが,「基本的には飛び込んで泳ぐしかない」との覚悟は了解のうえで,あえて畳の上の水練にも意義を認める狙いがうかがえる(起こるべき問題を事前に知っておくメリットに注目し,著者は「ワクチン効果」と呼んでいる)。また,マネジャー自身が成長に努めると同時に,人事・人材開発部門からの支援も欠かせないと指摘し,フォローアップ研修やメンタリングの導入など学習環境の整備を求めるアドバイスも見逃せない。

●著者:中原 淳  ●発行:中央公論新社/2014年5月10日
●体裁:新書版/295頁  ●定価:880円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki