書評 2014.09
「理不尽な評価」に怒りを感じたら読む本
「評価はしょせんええかげんなもの」と著者はあえて大阪弁で語りかける。人が人を評価することの無理・矛盾・限界を並べ,また,よく知られる評価エラーのパターンを整理しながら「間違いは当然起きる」と断言する。ゆえに,評価される側は過剰にストレスをため込むのではなく,評価結果なんかは鈍感に,楽に受け止めようと諭している。ただし,低い評価には“それなりの理由”もあるのではないかと問いかけ,普通の人は自己評価が甘めになる傾向を指摘。不満を抱いて成長を止めてしまうのではなく,評価エラーを逆手にとる(上司の過大評価を誘引する)くらいのしたたかさを求めてもいる。評価項目の精読を勧め,その内容を意識した仕事の取り組みや周囲への関わり方などのテクニックを披露しつつ,上司からのフィードバックを聞き入れて改善努力し,いったんは会社の歯車になる覚悟を迫るなど,ユーモア半分ながらも正論の本筋は確かだ。働き続ける意味と評価制度との距離感を肌感覚で説いた手厳しくも温かい眼差しを感じる1冊。
●著者:藤本篤志 ●発行:ダイヤモンド社/2014年6月19日
●体裁:四六版/223頁 ●定価:1,400円(税別)
働かないオジサンになる人,ならない人
50歳を過ぎ役職を外れたあたりから職場のお荷物になってしまう「働かないオジサン」を4つのタイプ(@無気力,A批判・評論家,B定年前嘱託,C団体行動)に分類し,それぞれの生態と対策を整理している。しかし,「働かないオジサン」を批判的に見るだけでは,今の若手社員も8割はやがて同じ運命になると著者は警告する。すなわち,「働かないオジサン」は新卒一括採用とピラミッド型組織から構造的に生み出される存在であり,根本的な解決は容易ではないというのだ。そこで,縦軸に「会社へのコミットメントの高低」,横軸に「承認に喜びを得るか・仕事に喜びを得るか」をとった4象限を用意して,新たな働き方とキャリア観を模索するヒントを示している。結果的には会社への依存心を断ち切る作業に重なるのだが,必ずしも退社や起業を勧めてはいない。「代わりがいない自分」への理解,もっと具体的にいうと「いい顔」をして働けるかどうかが鍵だとし,若い段階からキャリア観を意識して働く重要性に気づきを与えてくれる内容だ。
●著者:楠木 新 ●発行:東洋経済新報社/2014年7月10日
●体裁:四六版/223頁 ●定価:1,300円(税別)
過労自殺 [第二版]
1998年の初版から「ほぼ全面的に書き改めた」とされる第二版の登場だ。第1章では比較的最近の過労自殺の事例が8話にわたって紹介されている。大手企業の若手社員,IT系専門職,金融機関の女性総合職,あるいは医師,学校の先生も含まれ,添えられた遺書や家族の証言などから伝わってくる悲壮感・理不尽さはリアルだ。第2章以降では各種のデータを分析し,「勤務問題」に起因する「勤務先」を場所に選んだ自殺が増加傾向にある事実(警察庁認知)を示している。にもかかわらず「労災申請」は1割にとどまり,遺書の大半が「会社への抗議」ではなく「皆様へのお詫び」に終始している特異性に注目し,職場環境が抱える矛盾とそれを許している社会的病理に迫っている。国会が動き,行政による予防策の整備が進み始めてはいるものの,企業側の理解や取り組みはなお不十分だとして,研修の機会もないままに即戦力を期待したり「鬼十則」で追い込んだりするのではなく,「疲れたら休める」健全性を確保するよう努力を求めている。
●著者:川人 博 ●発行:岩波書店/2014年7月18日
●体裁:新書版/277頁 ●定価:820円(税別)
クリエイティブ人事
サイバーエージェントという会社の成長・活気・スピード感は,様々な人事制度の工夫のうえに成り立っていた。提案制度,社内転職・社内ヘッドハンティング制度,面談制度など他社でも想像可能なものから,飲み会への補助金,コラーゲンドリンクの支給,役員入れ替えまで,大小無数の仕掛けが社内に張り巡らされている。これら一連の施策を手がけてきた曽山氏の人事部創世記ともいえる物語が抜群に面白い。伝統型企業の人事部からすると“ノリだけではないか”と疑いたくなるかもしれないが,さにあらず。いずれも無数の失敗(人事部の自爆)から学習し,反省を活かした結果であった。人事部の役割を「コミュニケーション・エンジン」と定義し,経営層の要望と現場の声との間で板挟みになる矛盾を使命として引き受け,打開策と改善策を見つけていく「ダカイゼン」(社内用語)に奮闘する姿は感動的ですらある。共著者の金井氏が「創造的人事のショーケース」と注目する同社の取り組みからは,近未来のマネジメントの姿が読み取れそうだ。
●著者:曽山哲人/金井壽宏 ●発行:光文社/2014年7月20日
●体裁:新書版/243頁 ●定価:760円(税別)
HRM Magazine.
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