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書評 2014.10

本質採用

 今,採用の現場では「集める」から「育てる」へ質的転換が起きていると採用コンサルタントの著者は述べる。学生・企業担当者それぞれの声を拾いながら,双方に有意義な入社・採用の形を探り,その動向を書名「本質採用」に象徴させている。例えば,母集団を増やしても内定率の向上につながりにくいという課題では,学生と企業の相互理解を深め合う場が欠けているのではないかと疑い,マニュアル通りの面接問答などではなく,リアリティのある仕事体験や,仕事観・人生観について議論するプロセスを盛り込むよう提案している。ただ,価値観や企業文化とのマッチングを図るといっても,「挑戦」「自己実現」「成長」等,他社にもそのままあてはまるような抽象表現では掘り下げが甘く,「○年後に○○事業を立ち上げられる人材を求む」というくらいに自社らしさを具体的に際立たせる必要があると語る。学生にとって「候補企業の1つ」から「ぜひ入社したい」オンリーワン企業に脱皮するために,企業側が何を改めるべきかが見えてくる1冊。

●著者:河本英之  ●発行:クロスメディア・パブリッシング/2014年8月21日
●体裁:四六版/255頁  ●定価:1,480円(税別)

不祥事は,誰が起こすのか

 日銀在職中には自ら考査の現場を担当したという著者が,今もって絶え間なく発覚する企業不祥事の数々を俎上に載せ,どこからそれは起こるのか解明に挑んでいる。不祥事を起こした企業が事後に発表した第三者委員会の報告書を読み解き,報道以上に正確で詳細な情報を把握したうえでの論考なので内容は非常に興味深い。日本企業は諸外国に比べてコンプライアンスリスクが小さいと見られがちだが,それは単に発見率や摘発率が低いだけではないかと手厳しい。例えば,社外取締役を置いても機能していなかったり,M&Aを繰り返した結果,経営のハンドリングが弱くなって現場任せに放置されていたりするガバナンスの盲点を指摘。また,ビッグデータから不正を見つけ出す手法など最新のテクノロジーを紹介する一方で,現実には不正・不祥事の「ゼロ」はありえず,必ず起きるという前提でいかに頻度を減らすかが予防のポイントだと述べている。企業人読者にとっては,最終章にまとめられた「不祥事防止のための10か条」が有益なヒントになりそう。

●著者:植村修一  ●発行:日本経済新聞出版社/2014年9月8日
●体裁:新書版/239頁  ●定価:850円(税別)

心の病が職場を潰す

 精神医学の専門家である著者は,勤労者の精神疾患がより身近な問題に浮上している現実を捉え,社会的に解決していくためにまずは正しい知識の理解が欠かせないと本書に解説を綴っている。とりわけ,うつ症状に象徴される精神疾患は,日本の職場(多様性を認めなかったり,一度失敗すると再起が難しかったりする暗黙のルール・空気が支配している)ゆえに発生しやすい課題があるとも見抜き,いくつかのケースを生々しく追いながら,問題のありかを探っている。一方,解決策となると,産業医と主治医の立場・見解の違い,休職期間あるいは離職を巡る会社側の対応などがケースバイケースであり,答えが1つではない難しさも明かす。過労自殺や労災,あるいは休職・復職の判断・取り扱いなど,人事業務との接点にも触れ,トラブルが「個人対企業」の関係性で起きていることから人事部門に期待される役割の重要性は増していると示唆する。いわゆるメンタルヘルス問題の現況を理解するうえで,目を通しておいたほうがよさそうな内容だ。

●著者:岩波 明  ●発行:新潮社/2014年9月20日
●体裁:新書版/231頁  ●定価:760円(税別)

いっしょうけんめい「働かない」社会をつくる

 本書の主要な論点は一応「エグゼンプション」を巡る考察とされる。しかし,法制度の瑕疵を突き,抵抗を呼びかけるような思考停止した議論では全くない。日本型と欧米型の実態を多層的に対比させ,イイトコドリを狙うしたたかな雇用改革論が,説得力を伴って面白く読める。そもそも“日本人は低賃金の長時間労働に苦しみ,欧米人は効率的な働き方でWLBも充実させている”といった認識は幻想だと著者は断じる。すなわち日本企業では年収900万円の中高年ヒラ社員の存在が問題化しており,また欧米ではエリートとノンエリートの差が顕著で,前者は高給の代わりに日曜も働き詰め,後者は一生ヒラ社員ながら共働きによって世帯収入を確保し,WLBを維持していると,各種のデータ資料を駆使しながら実証を試みている。新卒採用から様々な体験を積み上げ成長していける日本型雇用の良いところを残し,かつ一定の習熟段階からは職務ベースの雇用関係を結び直す「途中から欧米型」という選択肢を提案。もはや救国のシナリオといってもいい。

●著者:海老原嗣生  ●発行:PHP研究所/2014年9月30日
●体裁:新書版/231頁  ●定価:820円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki