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書評 2014.11

定時帰宅。

 著者の主張は“脱社畜”に尽きるようだ。「もはや我慢・忍耐では成長できない」と言い切り,長時間労働でがんばるのではなく,会社と距離を置き,自分のために投資する余裕を確保するよう読者に勧める。仕事の効率性を高め,デキる人を目指す働き方が正論だとは認めつつ,効率的に仕事を進めても仕事量が増えるだけ,また,本当にデキる人は,能力・努力が相当にハイレベルだと現実的な見方もする。そのうえで,定時帰宅を妨げている最大の要因は,仕事量や効率の問題ではなく,職場の空気(=不文律的連帯責任)ではないかと,その正体を疑う。これからの働き方では,特定の会社に依存せず社外でも通用する力を身につけていくべきだとし,“空気を読んでダラダラ働いているヒマはない”と歯切れがいい。「仕事はデキるが帰属意識は低い」というキャラを周囲に印象づけていくテクニックを紹介するなど,いわゆるビジネス書とは一線を画した独特の勤労観が際立っていて,(世代によって評価は2分されそうだが)面白く読めるのは確かだ。

●著者:日野瑛太郎  ●発行:大和書房/2014年8月20日
●体裁:四六変形版/197頁  ●定価:1,200円(税別)

「育休世代」のジレンマ

 従来のジェンダー論が“男なみ”になれない女性たちのために闘うスタンスだったのに対し,本書は,当然のように“男なみ”に働いてきた女性たちが出産・育児を契機に直面する違和感を扱っている。研究のベースは,一流大学を卒業し,就職活動を勝ち抜き,仕事のやる気あふれるまま,結婚・出産を経た15人へのインタビューだ。退職者・退職予備軍・継続勤務者の3グループに分けて意識を探るなかで見え隠れする特徴は,いわゆる均等法初期世代との違いだ。すでに女性の就労が一般化し,両立支援制度も整いつつある環境ゆえ,「産め,働け,育てろ」とのプレッシャーがひと周り大きくなっていると著者は論じる。企業側の人事政策も複雑に影響し,例えば産休後の配属配慮が,総合職として闘ってきた本人のやる気を奪うケースもあるという(マミートラックというキャリアコースの問題)。複雑・多岐に及ぶテーマであり,安直な解決策は導けないが,“女性社員”というカタマリではなく,1人ひとりの声を拾うべきではないかとの指摘は有益な示唆を含む。

●著者:中野円佳  ●発行:光文社/2014年9月20日
●体裁:新書版/351頁  ●定価:880円(税別)

仕事。

 誰もが知るクリエイティブ系“巨匠級”の大御所12人にインタビューを試みた贅沢な編集企画だ。その巨匠たちに1979年生まれの著者が「30代の頃,何をしていましたか?」と掘り下げていく。本書のタイトルに句点「。」がついているのは,お金のためではなく人生を楽しくするための仕事を表現したかったからだと著者は説明する(「労働」と区別する意味か?)。聞き手も語り手も会社員からは距離のある立場でキャリアを積み,また何十年も前のエピソードも含まれるので,皆さんの“働きぶり”は組織のしがらみや労基法の制約なんかとは無縁だ。「30代は寝てるヒマなんかないでしょ」との発言もあるように,若い頃のジャンルを越えた様々なインプットがその後の成果に大きな影響を与えている因果律は読み取れる。昔話に終わらせず,人の持つ根源的な力(価値観,原風景,勇気,野心,嫉妬のエネルギー,開き直りの力など)を引き出しているのは,インタビュアーの力量でもあろう。読後は少し視野が広がり,人の持つ可能性を信じてみたい気にもなる。

●著者:川村元気  ●発行:集英社/2014年9月29日
●体裁:四六版/276頁  ●定価:1,400円(税別)

出世する人は人事評価を気にしない

 会社員の出世に着目したとき“選ばれるルール”には大きく2〜3段階あると著者は見ている。第1段階は組織のパーツとして優秀かどうか。つまり正確性,知識量,迅速性といった目の前の仕事への対処スキルの高さであり,一定の習熟レベルに達すれば卒業方式で昇進できる。係長あるいは課長までのルール。2つ目の段階は,リーダーの資格があるかどうか。目的を押さえ,問題を構造化し,組織的に解決を図っていけるかどうか。部課長クラスに求められる力量であり,入学基準に達しない限り昇進はない。3つ目に経営層への選抜基準があるとすれば,もはや人事評価など参考程度にしかならないビジョン,パワー,事業戦略性が優先される。すなわち第2段階から先は,人事評価に忠実な働き方をしていても人材選抜から漏れる真実を本書は明らかにしてしまった。このルールを理解したうえで社内で闘うもよし,視野を社外に広げプロフェッショナルとして活躍を狙うもよし。キャリア観の形成やこれからの働き方にヒントを与えてくれる良書である。

●著者:平康慶浩  ●発行:日本経済新聞出版社/2014年10月8日
●体裁:新書版/247頁  ●定価:850円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki