*

HRM Magazine

人事担当者のためのウェブマガジン | Human Resource Management Magazine
HOME
 HR BOOKs
  

書評 2015.12

社員が自主的に育つスゴい仕組み

 ベテラン経営コンサルタントの著者が,中小企業の経営者に向けて人事の要点を綴った1冊。テクニカルな制度設計というより,人がやる気を出し,成長していく原理の部分にスポットを当て,人事制度・考課制度の仕組みに魂を込めるプロセスを解き明かしている。「立派なことを言っても言葉に誠がなければ心は通わない」「愛情がなければねぎらいのひと言も形式的になる」と,いずれも指摘は“もっとも”で説得力も十分だ。経営者にはフィロソフィの有無を問い,それを浸透させる粘り強さを訴え,そのうえで社員が自主的に成長していける「全従業員幸福人事制度」の取り組みを数社の事例も交えて紹介している。他社からの借り物や戦略方針に合致しない儀式的人事考課の落とし穴を警告しつつ,考課面接の場では,フィードバック(過去の検証)に加えて,フィードフォワード(未来への方向付け)が重要だとして,現場目線,育成目線の経営を指南してくれている。明るい未来は地道な実践から開けるものと腹落ちし,人材育成の覚悟が固まる内容だ。

●著者:末永春秀  ●発行:幻冬舎メディアコンサルティング/2015年10月23日
●体裁:四六版/256頁  ●定価:1,400円(税別)

ストレスチェックを実施するなら,「診断書」を読み解く力をつけろ

 メンタル疾患による休職・復職を巡って人事部門が介在する機会が増えている今,診断書に記載された「うつ状態」を「うつ病」と誤解する問題が企業の現場で起きていると精神科医・産業医の著者は指摘する。本人が病名を伏せたいと要望してきたときなど,主治医は「うつ状態」と記載するそうだが,会社(人事・産業医・上司)はそれを「うつ病」と受け止めて対応策に乗り出してしまうケースがあるという。実際には「単に適性がなかっただけ」あるいは「適応障がい」や「発達障がい」,または別の病気が原因の場合もあり,うつ病を前提とした休職や職場復帰のプログラムでは解決にならないと解説している。また,主治医が判断する「就労可能」の状態と,会社が期待する「就業できる水準」にギャップが起こりがちなことから,誤解のリスクを減らすためにも主治医と産業医の連携が必要だと提案している。「従来型うつ」「現代型うつ」の診察ドキュメントや,「リハビリ出勤」のモデルケースが具体的に紹介され,課題や対応策がやさしく学習できる。

●著者:夏目 誠  ●発行:社会保険出版社/2015年10月31日
●体裁:四六版/190頁  ●定価:1,300円(税別)

出世する人は一次会だけ参加します

 会社員生活で直面するいくつかの「選択」をキーに人事コンサルタントの著者がキャリア形成のヒントを示してくれている。アドバイスに先立ち,今の時代は会社のあり方がそもそも一律ではなく,大きく3つのタイプ(ロイヤリティ型,環境適応型,自立型)に分かれていると分析。従って,個人の動き方も会社のスタイルによって変わるとし,複数のルートを示唆している。選択のテーマでは,例えば「残業するか,早く帰るか」「社内の飲み会に行くか,プライベートを優先させるか」「異動を受け入れるか,今の部署で専門性を高めるか」といった項目が並ぶ。いずれも「こうすれば出世できる」と安直に断じるのではなく,人事制度とキャリアの関係を丁寧に解きほぐしていく論理的なスタンスゆえ,内容の密度は濃い。「誰もがいつかは社外に出る」という絶対条件を視野に入れ,そうであるならエンプロイアビリティを超えてセルフマネジメントアビリティを磨くべきではないかとも説く。ユニークな書名に託された真意はそのあたりからもうかがえそうだ。

●著者:平康慶浩  ●発行:日本経済新聞出版社/2015年11月9日
●体裁:新書版/247頁  ●定価:850円(税別)

「上司」という病

 かつてはまともだった人が,役職に就くと「困った上司」に変貌する構造を精神科医の著者は「病」と捉えて多面的に考察している。わがまま・無責任・理不尽に暴走する代表格として特権意識を挙げ,“自分はもっと大事にされるべきだ”と過剰に偉そうに振る舞う背景には,特権を誇示しないと自己愛が保てない屈折した心理が潜んでいると分析している。また,困った上司には,周囲のイエスマンたちが盛り立てたり,理不尽な依頼を笑顔で受け入れたりして,問題行動を助長させている側面もあるとし,上司が「オレは正しい」と誤認する余地を指摘している。さらに,この病の構図は会社関係以外に,年長者・お客さま・親といった立場でも見出せるとし,末路は「老害」だと論じている。有効な対策の1つは,素人の上司をマネジメントする力をつけて,プロの部下になること。すなわち,言いなりに振り回されるのではなく,妥当な結論をお膳立てできる「賢いイエスマン」の姿を提案している。上司・部下いずれの立場でも本書から得られる教訓は多い。

●著者:片田珠美  ●発行:青春出版社/2015年11月15日
●体裁:新書版/191頁  ●定価:870円(税別)

HRM Magazine.

【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki