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書評 2016.01

女子学生はなぜ就活で騙されるのか

 大学生の就活動向に詳しいジャーナリストの著者は,激変する新卒採用の現場および入社後のエピソードを架空モデルで追い,若者のキャリアのあり方にアドバイスを綴っている。例えば,採用スケジュールやインターンシップ,就職ナビ等の情報には企業側の意図が仕組まれていて,そこを理解せず表面的に動き回っても門前払いになる可能性が高いと警告する。また,有名企業・地元・一般職を求めがちな親の意見も時代感覚がズレていて,キャリア観形成の阻害要因になっていると指摘する。さらには,大学キャリアセンターからの的外れな助言が加わり,混乱に拍車がかかるケースもある。とりわけ「自己分析が大事,資格取得が有利」と教えられ,真面目に取り組んだがゆえに内定を獲得できない姿はリアルすぎてイタい。一方,就職後には旧一般職との軋轢,あるいは専門へのこだわりが強すぎて自ら道を閉ざしてしまう悲劇も待ち受ける。主に学生を対象にしたスタンスながら,表裏の関係で採用側の問題も浮き彫りにされ,人事課題も多々見出せそう。

●著者:石渡嶺司  ●発行:朝日新聞出版/2015年11月30日
●体裁:新書版/271頁  ●定価:780円(税別)

人事の超プロが明かす評価基準

 かつては企業の人事部に在職し,その後はコンサルタントとして多くの職場を見てきた著者は,“評価基準が明確ではなくフィードバックもない現実”に危機感を覚え,成長企業に共通する普遍的な評価基準の抽出を試みたという。そこでまとめられたコア資料こそまさしくコンピテンシーであり,本書には,新人から一人前・チーフ・課長・部長・役員に至るまで,計45の行動基準が整理されている。各シートの「OKな行動」「NGな行動」を順番にチェックしていくだけでも相当の学習点が見出せる。これを,個人には「自ら気づく」材料に,上司の立場にいる人には「部下に気づかせる」ヒントに,人事部門には「人を育てる仕組みづくり」に,それぞれ応用の余地を示唆。基本的には会社の求めるコンピテンシーを理解し行動できるよう社員に促す記述ながら,訴求はそこにとどまらない。コンピテンシーは人生の可能性を広げるベンチマークだとも論じ,「会社から選ばれるのではなく,自分でキャリアを選べるように」とアツいメッセージも盛り込んでいる。

●著者:西尾 太  ●発行:三笠書房/2015年12月5日
●体裁:四六版/231頁  ●定価:1,300円(税別)

人事評価の裏ルール

 企業業績が好調でも,パフォーマンスに合わない・変化についていけない人材には退職を促すという最近の動向を捉え,著者は「常時リストラ」と名づけている。そこで具体的にどのような人が切られるのかを掘り下げ,評価基準には明文化されない裏ルールに踏み込んで分析したのが本書だ(ベースは人事担当者100人へのヒアリング)。あえてパターン化すると,「チームワークに不向き,協調性がない社員」「ムダな仕事ばかりやる非効率社員」「遊びを優先する私生活重視社員」となり,大括りには多くの読者も納得できるかもしれない。しかし,人事担当者の個別のコメントからは意外な厳しさもうかがえる。特に各社は30代社員への見極めを先鋭化していて,成長が止まった場合は不良資産化する前に早めの処分を考えるのだという。「抜かれて抜き返す気力がない人はアウト」との発言はまさに象徴的だ。世代別・業種別・役職別に次々にダメ基準が列挙されるなかにあって,章を改めて整理された「会社から見捨てられないための7 ヵ条」には救われる。

●著者:溝上憲文  ●発行:プレジデント社/2015年12月7日
●体裁:四六版/240頁  ●定価:1,500円(税別)

上司失格!

 多くの上司は,その立場に就いている以上少なくとも無能ではない。一定の成果は挙げているし,発言力・影響力も小さくはない。むしろ有能であるがゆえに,どこかズレている場合,より迷惑な存在となるようだ。やたら説教をする,話を聞かない,責任逃れをする,パワハラし放題,優柔不断,ヒラメ,不良・不健康,有言不実行,時代錯誤,やる気を削ぐ,など本書は困った上司の姿を35のパターンに分類し,問題ぶりを描写している。基本的には“自分は有能だが部下はダメだ”という認知が強いと,防衛反応を含めて攻撃的な挙動に出るようだ。この手の兆候を捉えて著者は「自分を上回る部下個々の能力を統合して指揮を執るところに上司の本懐が極まるのではないか」と諭している。ダメ上司満載の反面教師事例集とでもいえそうな本書は,真正面から読み込んで反省点を学習してもいいし,“あるある”のリアル感を素直に面白がって読んでも許されるだろう。一読後は巻末の「ダメ上司危険度チェックリスト」を用いて振り返ることもお勧めだ。

●著者:本田有明  ●発行:青春出版社/2015年12月15日
●体裁:新書版/207頁  ●定価:860円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki