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書評 2016.02

決定版 上司の心得

 大阪・東京を6度にわたって転勤,海外企業のM&A,破たん会社の再建など,ホットなビジネスを戦ってきた著者が,現職の管理者向けにリーダーの心得を語る。ビジネスは生き物であり,理論通りに進まないところに仕事の醍醐味があるとの前提で,運命を受け入れ,真摯に取り組む熱意と謙虚さ,ノブレス・オブリージュの自覚を説いている。上司の役割は「成果を出し,人を育てること」と定め,メンバーの成長エンジンに火をつけるチーム作りの極意にも踏み込む。成果は出して当たり前であり最大限の知恵と汗を求める一方,「長時間労働は,プロ意識と想像力と羞恥心の欠如だ」とも言い切る。あるいは,できる部下を重用し組織内に競争原理を持ち込むより,弱い部下を助け,支え合う風土を築いたほうが全体の士気は高くなると自ら実践してきた運営手法も披露する(もちろん必要な叱責はためらわず「仏の心で鬼になれ」とも諭す)。仕事論,キャリア論,自己啓発論,人生論に至るまで,短いセンテンスに凝縮された“いい話”が満載の良書だ。

●著者:佐々木常夫  ●発行:KADOKAWA/2015年12月10日
●体裁:新書版/219頁  ●定価:800円(税別)

社長が代わると,どうして人事制度が変わるのか?

 人事担当者を読者対象に制度改変の指針を解説したプロ向けの1冊。ただし,複雑な制度設計は人事部門の自己満足に終わるとして退け,土台と柱をシンプルに築く方法論に注力している。概論編では「人事制度は経営戦略を浸透させ,経営課題を解決するツールだ」と割り切りを示す。すなわち,制度自体は主役ではなく,ビジネスモデルが変われば人事制度も変える必要があり,経営戦略転換のメッセージになるという関係性を解き明かしている(ここが書名の問いへの回答でもあろう)。概論編に続く制度設計・運用編では,「等級」「評価」「報酬」の3方向からの整理に挑む。等級制度の設計では5年後・10年後の昇格状況まで予測する視野を求め,また,評価制度では「差」をつける仕組みゆえ「公平」はありえないとも断じる。人事制度は「成果主義」か「能力主義」かと迷うのではなく,自社の戦略課題にどう合わせるかに尽きると,アドバイスの歯切れの良さは抜群だ。随所に挿入された「コンサルタントのミニ解説」も身近な話題から理解を助けてくれる。

●著者:吉岡利之  ●発行:日本生産性本部/2015年12月15日
●体裁:四六版/205頁  ●定価:1,500円(税別)

会社という病

 日本の企業は「人を大事にしている」といいながら,それは自画自賛であり,実態は「死ぬまで働け」というブラック企業に堕していると,著者の指摘は辛口だ。しかも,企業社会の病巣を俎上に載せ江上節でエグるという本書の企画の第1話は「人事の病」。第2話以下,出世,派閥,上司,左遷,会議,残業,と続き,「病」のテーマは計29に及ぶ。他にも,就活,定年,成果主義,社長,部課長,取締役,同期,創業者,先輩,査定,給料,ボーナス,と綴られる問題点のほとんどが人事マターであり,人事担当者にとっては何とも衝撃的な構成だ。ただ,着眼点はもっともで,特に出世にとりつかれて不正行為に加担するような生き方の不合理さには納得させられてしまう。出世競争などどこかで諦めたほうが,その後の人生は幸せなケースが多く,最後まで競争にこだわると老害になるとも述べられている。本書に描写された「病」のほとんどが,著者自身が体験した銀行人事での実話であり,その生々しさゆえ読み始めると止まらなくなる危険な1冊でもある。

●著者:江上 剛  ●発行:講談社/2015年12月17日
●体裁:新書版/255頁  ●定価:880円(税別)

人工知能×ビッグデータが「人事」を変える

 直観や腹芸といった属人的なあいまいさを廃し,データに基づく客観的な選考を進めようとする科学的採用手法が日本でも注目されてきた。本書は,さらに一歩先にある「AI(人工知能)×ビッグデータ」時代の人事に目を向けている。先行する海外事例を紹介しつつ,日本企業が得意としてきた暗黙知経営からの脱皮を訴求。人材の資質,コンピテンシー,価値観をデータ化し,企業文化に適合した人材の採用や課題解決に最適なチームの組成を提言する。応用分野は広く,語られる可能性は6つの領域(@人事戦略,A採用,B評価,C異動・配置,D教育・キャリアパス,E企業文化)に及ぶ。データベースから埋もれた人材を抽出する手法以外に,社内を行き交うメールやSNSのデータから「発想」「行動パターン」「評判」「モチベーション」「コミュニケーション」の状態を分析するといった使い方が進むとする視点からは,人事の近未来の姿も予感させられる。データマイニングのセンスを磨き,「知を創造する人事」になるためのヒントも要注目だ。

●著者:福原正大/徳岡晃一郎  ●発行:朝日新聞出版/2016年1月30日
●体裁:四六版/224頁  ●定価:1,500円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki