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書評 2016.04

働く女子の運命

 法的に「男女平等」を実現していながら女性活躍推進が進まない我が国には,条文に現れない阻害要因があるのではないかと著者は疑う。「ジョブ型」(欧米型)の雇用関係の場合は“その仕事ができるか”を基準に女性の職域が拡大され男女平等に行き着いたが,「メンバーシップ型」(日本型)のもとでは,忠誠心やら家族を養う給料やら様々な事情が絡み合って問題が複雑だと読み解いている。その過程では歴史に分け入り,女工から職業婦人,女子挺身隊,BG,OLに至るまで,時代ごとに象徴されるトピックを取り上げている点が面白い。例えば,1930年代にはすでに男女賃金格差是正の声は挙がっていたというが,一方で,婚期を逸することがないよう「女子事務職28歳定年」の制度化が肯定される時代だったと振り返る。また,戦時中の女子労働力の活用は婦人団体の側が積極的で,軍部は家族制度の崩壊を懸念し消極的だったという話も興味深い。中長期の変遷で見れば,女性総合職の活用は1990年代半ば以降であり,今はまだ変化の途上という認識が腑に落ちる。

●著者:M口桂一郎  ●発行:文藝春秋/2015年12月20日
●体裁:新書版/253頁  ●定価:780円(税別)

女性に「ついていきたい」と言われる上司の仕事術

 女性のキャリアサポートを手がける著者は,相談内容の半数が「上司」を巡る諸問題だと実態を明かす。女性の就労形態が“腰掛け”だった時代が終わり,普通に定年まで働く今後を考えるとき,職場のマネジメントは対応できるのかと問う。そして,ダイバーシティの諸課題を上司1 人が抱え込むのは無理だとも述べ,そうであるなら女性を味方につけてはどうかと提案している。まず前提となるのが性差の理解だとして,本書では一般的な男女の傾向を考察している。例えば,男性はタテ社会の秩序を重んじ,チームや昇進に価値を置きがちなのに対し,女性は“自分らしさ”の視点から公私をひっくるめ,共感の価値観を優先する特性があると解説している。この齟齬を埋めるには,細かい指導や頭ごなしのアドバイスは有効ではなく,上司の側が自らをさらけ出し,共感を得たうえで論理的な理解を手助けしていくような“余裕”がカギになると指摘している。「女性の心に近づく10のヒント」や,世代別のキャリアサポートのあり方などいろいろ勉強になりそう。

●著者:藤井佐和子  ●発行:WAVE出版/2016年2月18日
●体裁:四六変型版/192頁  ●定価:1,000円(税別)

マンガでやさしくわかる人事の仕事

 100人規模の某企業で“ひとり人事部”を拝命した若手社員の活躍・成長ぶりを通じて人事の仕事をガイドしていく1冊。マンガによるスピーディーな物語展開の合間に,重要な戦略ポイントがしっかりまとめられているので,真面目に読める。人事制度の体系,人事部門の役割,人事業務の年間スケジュール,採用実務,異動による組織の活性化などの解説は,すでに人事部門で活躍されている方にとっても知識確認や気づきのヒントになるだろう。また,主人公同様に初めて人事部門に配属された方には,採用・評価から退職・研修・キャリア開発に至るまでの全体像とともに,経営戦略を支える人事部門の立ち位置や,周囲を巻き込んで仕事を進めていく取り組み姿勢の重要性についても,ポジティブなイメージを伴って理解が進むはずだ。意気込み十分にして人事プロフェッショナルを目指す主人公,彼を外部から支援するバリキャリ系女性コンサルタント,社内を巡回清掃する謎のおばさん,といった登場人物の設定も,マンガらしいオチが用意されていてお楽しみだ。

●著者:トライアンフ/シナリオ:青木健生/作画:神崎真理子  ●発行:日本能率協会マネジメントセンター/2016年3月5日
●体裁:四六版/240頁  ●定価:1,500円(税別)

日本でいちばん社員のやる気が上がる会社

 社員満足度やモチベーションの高い会社には“いい福利厚生制度”があるという実態をとらえ,「社員とその家族が飛び上がって喜ぶ福利厚生制度」を100事例にわたり紹介している。「定年なし」「全員正社員」といった思い切った決断もあるが,取り上げられている施策の多くは大金を要せず,中小企業で実践されている法定外の福利制度だ。例えば,スケールの違う出産祝金,いつでも子連れ出勤,小遣いゼロ社員のための誕生日10万円支給,勤続4年ごとに10日間の特別休暇,1ヵ月のリフレッシュ休暇,週1回のゆっくり出社など。そんなに休んでばかりで大丈夫か? という読者の不安を先取りする形で“休みの長いほうが,従業員は仕事のやり方を工夫し,モチベーションを高め,定着率が改善し,本業への誇りが生まれ,仕事の質も向上するので,売り上げも伸びる”と理論化を試みている。いずれの施策も企業業績の向上は直接の目的ではなく,「社員第一主義」「幸せ最優先」をとことん貫いた結果,企業が成長するという“究極の経営”が成立している。

●著者:坂本光司&坂本光司研究室  ●発行:筑摩書房/2016年3月10日
●体裁:新書版/251頁  ●定価:820円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki