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書評 2016.07

労働時間革命

 いわゆる「人口ボーナス期」を過ぎた社会になると,男性が体力に任せて長時間働くスタイルでは企業間競争に負けると分析。これからは男女をフル活用できる組織だけが生き残ると“革命”の前提条件を整理している。育児で休む女性の数を,介護で休む男性の数が上回る時代がまもなく到来するという衝撃的なシミュレーションを示したうえで,働く環境を徐々に変えていったのでは間に合わず,もはや新しい仕組みへ飛び移る段階だと読者に決断を迫っている。著者の語る“革命”の要点は残業の削減(長時間労働の是正)だ。労働時間を削減し,生産性を上げると,組織内にはコミュニケーションや人材育成の余裕が生まれ,様々な好循環が機能し始めると述べ,地方自治体,警察署,大企業,IT企業,中小企業などコンサルティングを通して実証してきた成果の数々を本書に報告している。長時間労働が改善されると,雇用が増え,男女格差が縮小し,世帯の生涯年収も,出産率も上昇し,経済が成長し,税収も増えると提案されている救国のシナリオも要注目だ。

●著者:小室淑恵  ●発行:毎日新聞出版/2016年4月30日
●体裁:四六版/228頁  ●定価:1,200円(税別)

上手な求人広告の出しかた

 主に中小企業を対象に,人材採用のノウハウを解説した1冊。求人広告営業のベテランにして採用コンサルティングの現場経験が豊富な著者ゆえ,内容は極めて実践的だ。例えば,中途採用では「ネット」「求人誌」「新聞広告」「折り込み」「張り紙」等の窓口別のメリット・デメリットを整理し,採用人数に対して面接すべき対象者の数を経験ベースで導き出している。また,求人広告の出稿では「どの媒体に」「いつ」「どのように」という戦略ステップの順番も重要だと指摘。そのうえで,ターゲット層の年間行動パターン(ボーナス支給月・夏休み期間)や,広告掲載日に影響する外部要因(天候・連休の並び)の読み方にまで踏み込む。求人広告で訴えるアピールポイントが「会社」なのか「仕事」なのか「待遇」なのかを問い,どのような表現で応募者にフックさせていくか知恵を絞るプロセスも事例を挙げて公開している。中小企業の採用が求人広告の出し方によって大きく左右される現実とともに,ちょっとした裏技・裏話もうかがえて,面白く読める。

●著者:内田ひろし  ●発行:ライティング/2016年5月30日
●体裁:四六版/166頁  ●定価:1,500円(税別)

逆転出世する人の意外な法則

 遅咲きの出世は例外的かというと必ずしもそうではなく,むしろ若き出世頭が早々に脱落してしまう事例はいくらでもあると著者は語る。上司にとって便利な奴と,経営に期待される幹部候補とでは,評価基準の次元が異なるので,特に若い段階での選抜には一喜一憂する必要はないと諭す。実際,早く課長に昇進するとそれだけ敵が多くなり,その先に進むのは容易ではないという。一方,普通に(遅めに)課長になる場合は,誰も問題視しないため,その間に力(専門性や人間関係)を蓄積でき,意外に部長昇進が早かったりするとキャリアのありようを考察している。30代・40代でも「逆転」は十分可能だとし,特定プロジェクトを担ったり,格落ちの転職先で飛び級の昇進を狙ったりする方法も探っている。働き方のポイントは,今の処遇ではなく将来を視野に実力を積むという姿勢,そして経営的視点を持つという点に集約されるようだ。主に悩める社員向けのアプローチだが,評価制度に精通した著者のアドバイスは経営人事のあり方を問う鋭さも内包している。

●著者:平康慶浩  ●発行:プレジデント社/2016年6月1日
●体裁:四六版/208頁  ●定価:1,400円(税別)

マンガ経営戦略全史 確立篇

 苦学してMBAを取得したり,英和辞典を携えて本格的に学習に挑んだ方々にとっては邪道に映るかもしれないが,本書はテイラーに始まる経営戦略論を1995年に至るまでマンガで解説したスゴイ内容だ。フォード,メイヨーと続いて,ドラッカー,ピーターズ,野中郁次郎まで,要点を絞った解釈とともに一気通貫で読ませる贅沢な編集となっている。前半にあたる本書では,ポジショニング派とケイパビリティ派の対立を描写しつつ,約50人の巨人たちの功績をトレース。産業史やマッキンゼー,BCGといったコンサルティング・ファームの誕生物語を時系列で追ってもいいし,用語辞典がわりに「SWOT」「ベンチマーキング」「リエンジニアリング」「コア・コンピタンス」といった気になるキーワードを拾い読みしても許されるだろう。日本企業の動向では,ゼロックスに挑んだキヤノン,ビッグ3に挑んだホンダの話題も興味深い。ちなみに本書の後半として「革新篇」(1995年〜 21世紀)も刊行されていて,戦略マニアの心をくすぐるシリーズとなっている。

●著者:三谷宏治/シナリオ:星井博文/画:飛高 翔 ●発行:PHP研究所/2016年6月3日
●体裁:四六版/239頁  ●定価:1,200円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki