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書評 2016.08

管理職のための 今,どうしたらよいかが分かるメンタルヘルスケアQ&A

 企業組織で起こりがちなメンタルヘルスの諸問題をQ&A形式でやさしく解説した冊子。「課長」の悩みに「先生」が答える構成で,計30のテーマが並ぶ。担当する執筆陣は,産業医・弁護士・社労士・産業カウンセラーの4人で,各テーマとも基本的な要点と管理職向けのアドバイスが整理されている。部下の異変に気づき,声をかけ,産業医につなぐ基本ルールの理解は当然ながら,それ以前に管理職本人の健康リスクを重視している点も注目される。管理職がストレスを溜めると,本人のメンタル不調に加えて,職場全体に悪影響が波及するとの指摘だ(感情的な接し方によりハラスメントが起これば部下たちのストレスは増大し心の病が起きやすい職場になってしまう)。その点も踏まえて,予防知識の1つに「アンガーマネジメント」の手法も紹介されている。同様に部下のストレスを高め,心の病を引き起こすリスク要因には長時間労働があると述べ,過重労働の予防,残業管理の必要性も盛り込んでいる。研修などの場で配布する活用法もおすすめ。

●著者:中村雅和/中辻めぐみ/福本正勝/片山雅也  ●発行:第一法規/2016年6月20日
●体裁:四六版/95頁  ●定価:1,000円(税別)

「ハラ・ハラ社員」が会社を潰す

 セクハラ・パワハラを筆頭に「○○ハラ」は今や30種類に上るという。本人の性格に問題があるだけなのに,何でもハラスメントを大義名分にして言いがかりをつけ,周囲を困らせる「ハラ・ハラ」が起きていると,著者は自ら社労士の立場で関わってきた事例を含めて問題視する。各社が力を入れるコンプライアンス体制の確立は,皮肉にも「被害者」の立場を容易に成立させる環境を築きつつあるようだ。例えば,「お子さんは元気?」と課長が声をかけると「個の侵害である」と総務部相談窓口に駆け込む。相談窓口で「それ普通の会話じゃないか?」と疑おうものなら「総務部からセカンドハラスメントを受けた」と労基署に訴えられる。だから,ピントのずれた主張であっても会社は課長の側に「今後は注意するように」と申し渡すしかなく,以後,上司たちは萎縮して部下を叱ることもできなくなって,組織の業績も低下するという悪循環に陥るのだという。今後,この手の悪夢はさらに増えるという前提で,会社・上司には,覚悟と対策が迫られそうだ。

●著者:野崎大輔  ●発行:講談社/2016年6月20日
●体裁:新書版/191頁  ●定価:840円(税別)

女性活躍の推進

 女性は消費活動の7割近くに関与しながら,製品開発等の供給側の意思決定には1割も関わっていないという現実から,女性活用の立ち後れを本書はまず説き起こす。そして女性活用を阻害する要因は高度成長期以降の日本的雇用環境に内包されていると見届けたうえで,それを取り除く経営ロールモデルに資生堂の取り組みを挙げ,詳細を時系列で追っている。同社における女性活躍推進の歴史を「胎動期」「基礎固め期」「発展期」「成熟期」の4段階に区切ってトレースし,課題と乗り越え方を分析。実際同社では1995年の女性管理職比率は3.0%程度に過ぎなかったが,2016年には64.5%に拡大したと成果を報告している。さらに同社の事例を含めて女性活用成功のヒントは「ジェンダー・ダイバーシティー」と「ワーク・ライフ・バランス」の同時推進を図る「デュアルアプローチ」にあると論を導く。同社人事部で長く制度改革に関わってきた著者ゆえに深入りが可能な考察ともいえ,女性活躍推進のプロセスを探るうえでの第一級資料として注目できる。

●著者:山極清子  ●発行:経団連出版/2016年6月23日
●体裁:四六版/207頁  ●定価:1,600円(税別)

ベビー社員--職場をイライラさせる幼稚な人の深層心理

 精神年齢が未熟で感情のコントロールができずに,仕事関係で周囲とトラブルを起こす人々を,本書は「ベビー社員」と名づけ,12の事例で紹介している。著者が社労士の立場で知り得たエピソードをプライバシーに配慮しながら加工したというその内容は,労使問題というより精神分析の分野に近い考察だ。ベビー社員といっても実はベテランが多く,また性別では比較的女性社員の挙動が目を引く。鍵となる心理は「支配欲」と「嫉妬」だとされ,さらに5つのタイプに分類・整理している(@主演女優症型,Aヒガミーライン型,B女帝たきやま型,Cひとり懲罰委員会型,Dフローズンマウス型)。「自分は特別だからと賞賛を求める」「優れた人・努力する人の足を引っ張る」「仕事そっちのけで謝罪や補償があるまで騒ぎ続ける」「共感性が乏しいまま毒を吐き続ける」といった問題社員は,どこの職場にも出現する可能性があり,ゆえに病的な状態との境界線上のストーリーが,読者の心理をいっそう不安にさせる。怖いもの見たさに応える1冊。

●著者:田北百樹子 ●発行:PHP研究所/2016年7月29日
●体裁:新書版/223頁  ●定価:850円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki