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書評 2016.09

やらされ感ある評価者研修を日本一楽しくする実践ガイド

 いわゆる「評価者研修」は,時間や労力をかけた割に実感できるメリットが弱いことからどうしても“やらされ感”が伴ってしまうと著者は憂う。また,「期末だけ」「調整弁として」の運用では部下の成長は引き出せないと見限り,評価制度は序列づけや賃金査定にとらわれない育成志向の取り組みに行き着くはずだと述べている。具体的には,上司・部下間で期中のプロセス管理や期待感・成長課題のすり合わせを行う面接を重視。評価者研修でも目標設定やフィードバックのスキルが身につく内容で構成すべきだと解説している。すなわち評価スキルの向上というよりマネジメント力の強化にウェイトを置いた目からウロコの提案といっていいだろう。研修の場で使うテキストや帳票類のオリジナルはダウンロードで入手でき,本書は「講師の虎の巻」に相当するガイドブックとして編集されている。自社の実態に合わせてテキストのカスタマイズも自由とされ,使い勝手のあるツールと思われる。社員教育を担当する読者にとってはありがたいコンテンツだ。

●著者:島森俊央  ●発行:日本生産性本部/2016年7月24日
●体裁:A4版/119頁  ●定価:1,500円(税別)

最強のモチベーション術

 意欲ある人にチャレンジングな仕事を任せたら辞めてしまったとか,仲間と協力する組織体制にしたら士気が落ちてしまったというようなケースは,「エサがもらえるから芸をする動物」と「働く人間」との違いだと著者は読み解く。人間は単に報酬だけではなく,期待や魅力でも動き方を変え,一定の水準に応えようとしたり,仕事そのものに没頭したり,様々な計算を働かせて行動する存在だと観察している。「計算づくではない」「損な働き方をしている」といった場合でも成果への称賛や将来に対する貸しの意識が潜んでいると見て,モチベーションに内包される本音の部分を深掘りする。著者の持論「承認」の理論をベースにしつつも,本書では「こうすればモチベーションがアップする」という断定的な提唱は避け,古今の心理学の研究成果を紹介しながら,多面的に仕組みを解き明かしている点も読み応えがある。やる気があるから行動するのか,行動するからやる気が芽生えるのかといった因果関係も興味深く,考えるヒントを提供してくれている。

●著者:太田 肇  ●発行:日本実業出版社/2016年8月1日
●体裁:四六版/215頁  ●定価:1,500円(税別)

「いい会社」のつくり方

 感動経営を綴った書籍『日本でいちばん大切にしたい会社』(坂本光司・著)は,その後,「人を大切にする経営学会」の立ち上げ,「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」の運営という展開に至っている。本書は,その大賞の審査基準をベースに「いい会社」の条件を整理し,優れた経営の要点を探った内容だ。まず,「いい会社」の前提に位置づけられているのが「社員第一」の価値観であった。それは「利益追求」とは相反せず,社員第一だから社員もよく働き,利益も出せるという順番の問題だと解説されている(「黒字経営」は審査以前の応募段階でクリアが求められる条件の1つ)。社員第一に基づく「いい会社」の審査では,当然,人事分野の施策が問われる(労働時間,有休取得率,教育訓練機会,離職率,障がい者雇用率,非正規待遇,等)。ただ,表面的に制度が整っているだけでは足らず,風土に浸透し現場で実践されているかが本質だとも示唆されている。バブルが崩壊してもリーマンショックが襲来してもブレることのなかった“強さ”が読み取れる1冊。

●著者:藤井正隆  ●発行:WAVE出版/2016年8月13日
●体裁:四六版/240頁  ●定価:1,500円(税別)

「働きがいあふれる」チームのつくり方

 休暇の拡充,在宅勤務の推進など,大企業を中心に進む「働きやすさ」への取り組みは,実は従業員の望む「働きがい(仕事の満足度)」とズレていないかと著者は疑う。休暇制度の充実や定時退社の励行自体は悪いことではないが,同時にそれはキャリアの停滞感や“やらされ感”を増幅する可能性があるとの指摘だ。例えば残業禁止の管理強化が徹底されると,自律的に働く気持ちそのものが失せかねないと危惧する。本来「働きがい」は,少し背伸びして困難を乗り越える手応えにあるはずだとみて,本書ではその復権の方法を模索している。ただ,かつてのような「我慢して努力すれば報われる」というルールが成立しない事情は勤労者自身も気づいているとし,今の時代の真のニーズは「働いているこの瞬間の充実」にあると読み解いている。企業経営の課題に置き換えればそれは「働きがいの創出」になると問題提起し,ヨコ軸に「働きやすさ」,タテ軸に「働きがい」をとった四象限のマッピングで示して,目指すべき“ワークハッピー企業”の姿を導き出している。

●著者:前川孝雄  ●発行:KKベストセラーズ/2016年8月20日
●体裁:新書版/240頁  ●定価:880円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki