書評 2017.04
ハイスペック女子の憂鬱
有名ブランド大学や海外校を卒業後,一流企業に入社,一定のキャリアを積み,おまけに美人という,周囲から「ハイスペック」と思われている女性たちの実態を,産業医経験も豊富な著者がレポートした1冊。女子のキャリアストレスは,進学・就職・結婚・出産・子育ての各段階に存在し,男性中心のキャリアレール上で様々な齟齬を来す事情が描かれている。本人は能力もプライドも高いので,何事にも妥協せず立ち向かうのだが,その結果,過食やパニック障害という病変に至るケースもある。人事面では,女性向けに配慮した配属がかえって専門性を活かせない壁になるジレンマも発生する。あるいは,育休・復職制度を充実させたところで,同期との格差,周囲へのしわ寄せ,ゲタをはかせてもらっての昇格,ガラスの天井など,いずれもストレス要因になる。さらに,子供のお受験では“専業主婦に負ける現実”にも苦しめられるという。手抜き家事への後ろめたさ,夫の転勤で自分のキャリアを捨てるかどうかの決断ほか,女子のプレッシャーは想像以上に重そう。
●著者:矢島新子 ●発行:洋泉社/2017年2月17日
●体裁:新書版/192頁 ●定価:950円(税別)
会社の壁を超えて評価される条件
ヘッドハンティングのプロとして,19年間で2万人の候補者と接触してきたという著者は,その間に蓄積してきた企業組織と人材のマッチングの機微を本書に詳しく公開している。ターゲット人材との最初の接点は,経歴や実績などスペックに頼るものの,その後の転職の成否を確定する最も大事なポイントは暗黙知(=OS)の整合性にあると明かしている。すなわち,企業側の組織風土や成長(衰退)段階と各人材の行動・思考の基盤がかみ合うかどうかであり,合致すれば異業種間の転職でもうまい具合に力量を発揮できると事例を挙げて解説している。暗黙知といっても感覚的なブラックボックスの話ではなく,さらに深い層の能力要素に分解し,あくまで科学的アプローチで探っていく筆運びも興味深い。ヘッドハンティングという仕事のプロセスに沿って,一流の人材を見抜く着眼点(話し方・笑顔・筋の通し方・レジリエンス・大局観・可能性)を惜しげもなく開示することで,“いずれ声がかかる”ような人材力の高め方を読者に示唆している。
●著者:武元康明 ●発行:徳間書店/2017年2月28日
●体裁:四六版/217頁 ●定価:1,300円(税別)
労基署は見ている。
19年間にわたり労働基準監督官の職を全うしてきた著者は、本書に職業人生の“独白”を綴っている。労基法や臨検対策といった他にありがちな解説はほぼスルーし,監督官の採用,研修,配属の仕組み,異動のルールなど内側の人間でしか語れない逸話を淡々と記述する姿勢に興味を惹かれる。とりわけ,特別司法警察職員の立場で直接捜査に挑み,事案を検察に送致するまでのエピソードには迫力がにじむ。例えば,賃金未払いなどの情報を端緒に臨検に赴き,その際の経営者や組織の対応次第で“悪質”と心証を得た場合は,捜査に乗り出す。経営者およびその家族を含む口座の入出金記録を金融機関へ照会し,そこで得た取引先を調査し,実際の事業場の内偵や夜逃げ同然の経営者の尾行・監視を経て,裁判所から捜索差押許可令状を取り,警察に事前通報し,自宅と事務所を同時に踏み込む,といった職務を述懐している。あるいは,労災案件での関係者への事情聴取のやり取りなどもリアリティあふれ,監督官の姿が立体的に把握できる面白さ抜群の1冊。
●著者:原 論 ●発行:日本経済新聞出版社/2017年3月8日
●体裁:新書版/219頁 ●定価:850円(税別)
金融機関管理職のためのイマドキ部下の育て方
「ゆとり」「さとり」に象徴されるイマドキの部下とどのように接したらいいのか頭を抱える管理者が増える今,若手と管理者の世代間ギャップが大きい業種として本書は「金融機関」に注目する。ノルマ主義,減点主義,コンプライアンス厳守,クレームリスクの高い緊張型の組織体質ゆえ,パワハラも発生しやすい環境だと指摘されている。国内外の様々な職場事情を知り,かつメンタルヘルス問題の第一人者である著者は,まず部下を4つのタイプに分けてコミュニケーションを改善するヒントを探っている。そのえで管理者には「傾聴のスキル」の理解と活用を促し,叱り方や接し方のパターンを会話例を示して解説している。例えば,「同意・共感・質問・気持ちの伝達・褒めて終える」という基本手順は学習・応用の余地も大きく,「信頼される上司」に欠かせないスキルだと推奨。また,管理者自身のストレス予防にもページを割き,良好な人間関係を維持・発展させていく要素に加えている。金融機関に限らず部下に悩む皆様に役立ちそうな内容だ。
●著者:渡部 卓 ●発行:近代セールス社/2017年3月14日
●体裁:四六版/204頁 ●定価:1,400円(税別)
HRM Magazine.
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