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書評 2017.06

キャリアコンサルタント

 国家資格となった「キャリアコンサルタント」の存在意義を多面的に考察した1冊。資格取得の制度概要や学習要点はもちろん整理されているが,いわゆる受験ガイドとは一線を画し,相談者に向き合うキャリアコンサルタントという立場・役割を「人」の次元から深く解き明かしている点で読み応えのある内容を確保している。歴史的背景や社会的ニーズに加え,人の生き方に関わる重さ,相応の使命感を洞察していく慎重さも理解できる。例えば,キャリアコンサルティングでは,相談者の自己決定権を最大限に尊重する前提条件があるので「あなたはこうすべきだ」とは絶対に口にしないのだという。さらに,本書は様々な分野で活躍するキャリアコンサルタント有資格者たちへのインタビューを試み,ナマの声を紹介している。とりわけ企業内有資格者で人事担当者の場合は,その業務と専門領域が重なっているので興味深い。また,一般の管理者でも,日常の部下指導,目標面接などのコミュニケーションの場でスキルを活かせる様子が報告されている。

●著者:田中稔哉  ●発行:日本マンパワー/2017年3月27日
●体裁:四六版/279頁  ●定価:1,800円(税別)

魔法の人材教育

 60社以上の企業研修を手がけ,3,000名以上の教育に関与してきた著者は,ID(Instruction Design:研修デザイン)の重要性・戦略性を本書に訴求している。IDを担うIDer(インストラクショナルデザイナー)の役割は,研修のニーズ,パフォーマンス,体系全体のコントロールであるとし,分析・設計・開発・実施・評価のサイクルを回す手法を詳述している。そもそものゴールは「学ぶ」ではなく「行動変容」を経て「業績向上」を達成するところにあるとの再確認から,いったんは研修の必要性にまで遡り,研修では解決できないネックが潜んでいないか業務そのものを見直すこともする。対象者の上司,チームメンバーの協力なども戦略設計の要素に加え,そのうえで,研修計画書(研修スタイル・場所・講師選定など),研修ツール(スライド・ワークシート・テストなど)の制作要点にも踏み込んでいる。研修は科学的,理論的に取り組むべきであり,その手法はすでに確立されているとの指摘には改めてインパクトがあり,研修運営力の強化に有効な内容だ。

●著者:森田晃子  ●発行:幻冬舎メディアコンサルティング/2017年4月28日
●体裁:新書版/260頁  ●定価:800円(税別)

外資系で学んだすごい働き方

 外資系企業で経験を積んだ著者(ちなみに専門は人事)が“キャリアの築き方”を綴った1冊。世界の動向,日本企業の置かれた状況を鑑みるとき,現状維持の働き方では先細りしかない厳しい構造を明らかにし,今からでも意識と行動を変えるべきだとアドバイスする。外資系がモデルになるのは「キャリアは自分で作っていく」という強いマインドセットが認められるからだろう。ルーティンをこなすだけ,居心地が良いだけでは成長せず,年収も頭打ち。安住は許されないと心に決めて変化に対応し,自らを進化させていく働き方が期待されていると説く。いわゆるπ型の専門性を築き,ポータブルスキルの蓄積を目指すステップでは,転職で経験を拡げるプロセスも視野に入れている。正しい野心を抱き,自身の目標を言語化し,それをクリアしていく手法まで指南するスタンスは,働き方を超えてもはや生き方の領域にまで踏み込んでいる。可能性に満ちた若手はもちろん,中高年にも意識改革は避けられない事情を諭し,将来への一歩をプッシュしてくれている。

●著者:山田美樹  ●発行:プレジデント社/2017年4月30日
●体裁:四六版/287頁  ●定価:1,500円(税別)

「中だるみ社員」の罠

 本書における「中だるみ」とは,キャリアの停滞感を指している。客観的には,長く人事異動も昇進もなく,また本人の主観からすれば,成長感もわくわく感も自覚できない状態となる。その曖昧とした課題に対峙し,著者は,内外の調査,独自の聞き取りアンケート等の結果をベースに科学的に考察を進め,具体的なエピソードも広く拾って,いわば「昇進分析論」とでもいえるアプローチを平易な表現で整理している。停滞からの脱出策では「キャリアレジリエンス」というキーワードを掲げ,いくつかの知恵を示唆する。その1つは,自分で戦略的にキャリアを築いていくという正面突破だが,何もかも計画通りに進むわけがない事情も了解し,偶発性理論の応用も説いている。また,打たれ強さという点では「あえて考えずに目の前の仕事に没頭する」という開き直りのケースも紹介し,メンタリティの補強策に加えている。最終章では「上司・組織」の側から講ずべき防止策を提案しているので,人事担当者の場合は,この章から読んでも共感できるだろう。

●著者:山本 寛  ●発行:日本経済新聞出版社/2017年5月11日
●体裁:新書版/199頁  ●定価:850円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki