*

HRM Magazine

人事担当者のためのウェブマガジン | Human Resource Management Magazine
HOME
 HR BOOKs
  

書評 2017.09

できる人は社畜力がすごい

 営業コンサルタントの立場から様々な組織に関与してきた著者が「社畜か自分か」という究極の命題をサラリーマン読者に問いかける。読み終えてみれば「素直な人が成長する」というシンプルなオチに行き着くのだが,この結論に至るまでの振り幅がすごい。すごさの1つは,ある会社の営業部門を舞台にした「学習と成長」を巡る物語の面白さ。そしてもう1つは,解説の脱線ぶりだ。メディチ家やらアメリカ海兵隊やら話が飛ぶ都度,地球を周回し,歴史を行きつ戻りつして,一段と理解が底上げされる構成になっている。物語では,成長できない本人のもがき,成長しない部下を抱える上司の苦しみ,ともにリアルに描写。経験値の少ない若いうちは,未熟な自我を捨て,指導してくれる人の声を聞くほうが成長できる,という原則を改めて確認する訴求であり,その助言は守破離に近似する。深さも厚みも伴った指摘・示唆の数々は正当で理にかない,30年早くこの本に出会っていたかったとさえ思える。好悪が分かれるとすれば「社畜」という単語だろうか。

●著者:藤本篤志  ●発行:PHP研究所/2017年6月29日
●体裁:新書版/195頁  ●定価:820円(税別)

「働き方改革」まるわかり

 「働き方改革」の中心課題である労働時間管理を巡って,社労士(元・労働基準監督官)の著者が掘り下げる。読者を人事担当と想定し,これから制度企画に取り組んでいくという前提で多様な参考情報を整理。判例・通達・監督指導の歴史を振り返りながら,事業場外みなし労働時間制,フレックスタイム制,企画業務型裁量労働制など諸制度の趣旨・実態・運用時の注意点を綴っている。加えて,「電通事件」「高度プロフェッショナル制」「労働時間適正把握に関する新ガイドライン」「労働基準監督業務の一部民間委託」など新しいトピックを拾い上げ,その着目点もタイムリーだ。いわゆるダラダラ残業の防止策では,単に消灯やノー残業デーで一斉退社を促すのではなく,職務内容・責任・仕事の進め方の“見える化”が不可欠だと構造的な課題を指摘し,残業を認めない規定(残業禁止命令の措置)のサンプル条文も掲載している。紛争解決の諸制度では,労働基準監督署(監督官)の役割と立場に触れ,行政のあり方にも考える材料を提供してくれている。

●著者:北岡大介  ●発行:日本経済新聞出版社/2017年7月25日
●体裁:新書版/224頁  ●定価:860円(税別)

次世代経営人財育成のすすめ

 VUCA(変動・不確実・複雑・曖昧)時代に求められる「イノベーション人財」を育てる仕掛けについて,著者らは多方向から探りを入れている。グローバルで活発化するビジネスの動向を鑑みるとき,従来型の日本企業はもはや“戦わない社員の養成機関”でしかないと指摘し,ビジネスと人財(事業戦略と組織開発)の関係を一歩科学寄りの視点から再考している。また,イノベーションを起こすには固定観念から脱却して業績を挙げるステップが不可欠だとし,KPIの活用による業務の可視化,そして明らかになった失敗を検証して精度を上げていくPDCAの力の入れどころを詳述している。全体としては経営・人事の側からリーダーの“育て方”を追うスタンスだが,タレントマネジメントによる“発掘”という手法にも言及。さらに章によってはリーダー本人たちに読んでもらったほうが効果的と思われるコンテンツも盛り込んでいる。10項目27の具体的行動指針(行動特性)を整理した「一流人財のチェックリスト」などノウハウが凝縮された資料も必見だ。

●編者:みらいコンサルティンググループ  ●発行:同文舘出版/2017年7月30日
●体裁:四六版/181頁  ●定価:1,900円(税別)

経営者が知らない人材不足解消法

 相談件数のべ1,000社以上というベテラン社労士が中小企業の社長に向けて人材活用のアドバイスを語っている。マネジメント系の理論ではなく,経験から滲み出たノウハウを拾い出しているので,現場での腹落ち度は高いと思われる。ほぼ一貫しているのは「経営者自身が変わろう」というメッセージだ。「優秀な即戦力人材を採用したのに成果が出ない」「あいつは気が利かない」などとぼやくのではなく,能力を発揮しやすい組織文化や仕事の教え方を省みるべきではないかと,多様性への理解を求めている。また,評価制度を導入すれば人の課題は解決するかのように思うのは錯覚だとも指摘。個々の社員と向き合って制度に込めた想いを実践運用するところがスタートになると説く。あるいは,メンター制度は,部下本人にとっては違うことを言う上司が複数いる状態に陥るリスクがあると注意を促し,社長と社員の非公式なコミュニケーションの促進を提案している。「人の気持ちはお金で買えない」という原則に立って展開される人材活用論が味わい深い。

●著者:山本法史  ●発行:幻冬舎メディアコンサルティング/2017年7月31日
●体裁:新書版/198頁  ●定価:800円(税別)

HRM Magazine.

【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki