モチベーションの低下，突然の退職，自発性の欠如，メンタル不調など，今，顕在化している様々な職場の問題は，上司と部下の関係（コミュニケーションの場・方法）を変えることで予防・解消できると著者は提案する。とりわけ上司・部下が１対１で面談を行う「１on１ミーティング」の手法にフォーカスし，そのノウハウを本書に徹底解説している。書名に「シリコンバレー式」とあるのは，“人材が宝”のシリコンバレーでは「１on１」を週に１回程度の頻度で実施し実際に効果を挙げていることに由来している。では，典型的な日本の職場で「１on１」をどう展開していけるのか。進捗管理や業務連絡ではなく，雑談だけで終わってもダメだとして，７つの面談構成要素を挙げ，面談開始前の準備から，時間配分の目安，会話のパターン（NG・OK），話の流れ（構成），締めくくり，継続のポイントまでを手厚く丁寧にまとめている。部下の管理・指導ではなく，成長を支援していく立場に上司自身が変われるかどうか，そこが１つの成功ポイントのようだ。 ●著者：世古詞一 ●発行：かんき出版／2017年９月11日 ●体裁：四六版／224頁 ●定価：1,400円（税別）
サービス業の人材事情に詳しい著者らは，バイトの定着と店舗業績の関係に注目する。バイトがすぐ辞める職場では様々な形で店長にしわ寄せが行き，ますます人が集まらず，顧客も逃げ，負のスパイラルに陥ると憂う。対してバイトが辞めない職場では，人材の戦力化が進み，職場がイキイキとして顧客も集まり，業績が上がり，店長にも余裕ができると展望する。バイトが辞める原因の多くは「人間関係」（育ててくれない，雰囲気が悪い，やりがいを感じない等）にあるという実態を踏まえ，本書ではコミュニケーションにウェイトを置いた改善策をガイドしている。入社後のフォロー面談や，オンラインツールを活用した声かけなどのノウハウを公開するほか，採用がうまく運営されていれば人材は辞めないという経験則から「採用力」を要素分解して応募者を惹きつける秘策にも迫る。加えて，本社・本部には，サービス水準を切り下げるのではなく，おもてなしのスキルを高め，やりがいの充実を図っていくような働き方改革を進めてはどうかと提案している。 ●著者：平賀充記／上林時久 ●発行：クロスメディア・マーケティング／2017年10月１日 ●体裁：四六版／210頁 ●定価：1,380円（税別）
人材育成担当者にとっての基礎は知識であるとの確信に基づき，本書には100に及ぶキーワード解説が編纂されている。ただ，１万3,000社・200万人以上の人材育成をサポートしてきた執筆陣の実績からすると，100という数は多いというより，むしろ絞り込んだ結果といえるだろう。全体は，①理論編，②制度・手法編，③経営テーマ編，④研修編の４編に分類され，各テーマは「概要」「基礎知識」に加え「現場でのFAQ」が盛り込まれ，応用例を把握できる構成になっている。①理論編では，大脳生理学，効果測定，学習する組織など，②制度・手法編では，サクセッションプラン，メンター制度，人材育成助成金など，③経営テーマ編では，働き方改革，ダイバーシティ，MOTなど，④研修編では，キャリアデザイン，ロジカルシンキング，チームビルディングなどが並び，今の時代に必要な研修企画のベースおよび普遍的な知識項目は手堅い。著者らも示唆するように，この100テーマを俯瞰するだけでも種々のアイデアが触発されそうで，手元に備えておきたい１冊だ。 ●監修：眞﨑大輔 ●編著：トーマツ イノベーション ●発行：ダイヤモンド社／2017年10月４日 ●体裁：四六版／405頁 ●定価：3,800円（税別）
経営計画を作成し，実践し，業績を向上させ，人材育成を実現する----というシンプルかつ高難度の課題に正攻法で応える１冊。450社以上のコンサルティング実績から導き出したという「ビジョン実現型経営計画」の進め方を手取り足取りのレベルで解説してくれている。経営計画の策定では，目先の数字・理念強調・規則集だけでは“もどき”にすぎないとして， ５年以上先を見通した数値目標・具体的戦略・人材育成計画の３本柱を求める。さらに，10年後も全社員が目指せる目標を明らかにしたうえで，現状レベルと目標レベルのギャップを埋めるのが人材育成だと位置づけ，経営戦略と連動させた評価項目の設計，戦略実行を確実に進めるためのPDCAに重ねた制度運用のノウハウを解き明かしている。類書でも指摘されがちな「経営と人事の連動」という抽象課題は本書をもってようやく具体レベルで氷解するはずだ。「ビジョン実現シート」「経営計画書」「戦略・アクションプラン」等の作成を支援するエクセルファイルが収録された付属CD-ROMも助かる。 ●著者：山元浩二 ●発行：あさ出版／2017年10月28日 ●体裁：四六版／263頁 ●定価：1,600円（税別）
【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki
書評 2017.11
モチベーションの低下，突然の退職，自発性の欠如，メンタル不調など，今，顕在化している様々な職場の問題は，上司と部下の関係（コミュニケーションの場・方法）を変えることで予防・解消できると著者は提案する。とりわけ上司・部下が１対１で面談を行う「１on１ミーティング」の手法にフォーカスし，そのノウハウを本書に徹底解説している。書名に「シリコンバレー式」とあるのは，“人材が宝”のシリコンバレーでは「１on１」を週に１回程度の頻度で実施し実際に効果を挙げていることに由来している。では，典型的な日本の職場で「１on１」をどう展開していけるのか。進捗管理や業務連絡ではなく，雑談だけで終わってもダメだとして，７つの面談構成要素を挙げ，面談開始前の準備から，時間配分の目安，会話のパターン（NG・OK），話の流れ（構成），締めくくり，継続のポイントまでを手厚く丁寧にまとめている。部下の管理・指導ではなく，成長を支援していく立場に上司自身が変われるかどうか，そこが１つの成功ポイントのようだ。
サービス業の人材事情に詳しい著者らは，バイトの定着と店舗業績の関係に注目する。バイトがすぐ辞める職場では様々な形で店長にしわ寄せが行き，ますます人が集まらず，顧客も逃げ，負のスパイラルに陥ると憂う。対してバイトが辞めない職場では，人材の戦力化が進み，職場がイキイキとして顧客も集まり，業績が上がり，店長にも余裕ができると展望する。バイトが辞める原因の多くは「人間関係」（育ててくれない，雰囲気が悪い，やりがいを感じない等）にあるという実態を踏まえ，本書ではコミュニケーションにウェイトを置いた改善策をガイドしている。入社後のフォロー面談や，オンラインツールを活用した声かけなどのノウハウを公開するほか，採用がうまく運営されていれば人材は辞めないという経験則から「採用力」を要素分解して応募者を惹きつける秘策にも迫る。加えて，本社・本部には，サービス水準を切り下げるのではなく，おもてなしのスキルを高め，やりがいの充実を図っていくような働き方改革を進めてはどうかと提案している。
人材育成担当者にとっての基礎は知識であるとの確信に基づき，本書には100に及ぶキーワード解説が編纂されている。ただ，１万3,000社・200万人以上の人材育成をサポートしてきた執筆陣の実績からすると，100という数は多いというより，むしろ絞り込んだ結果といえるだろう。全体は，①理論編，②制度・手法編，③経営テーマ編，④研修編の４編に分類され，各テーマは「概要」「基礎知識」に加え「現場でのFAQ」が盛り込まれ，応用例を把握できる構成になっている。①理論編では，大脳生理学，効果測定，学習する組織など，②制度・手法編では，サクセッションプラン，メンター制度，人材育成助成金など，③経営テーマ編では，働き方改革，ダイバーシティ，MOTなど，④研修編では，キャリアデザイン，ロジカルシンキング，チームビルディングなどが並び，今の時代に必要な研修企画のベースおよび普遍的な知識項目は手堅い。著者らも示唆するように，この100テーマを俯瞰するだけでも種々のアイデアが触発されそうで，手元に備えておきたい１冊だ。
経営計画を作成し，実践し，業績を向上させ，人材育成を実現する----というシンプルかつ高難度の課題に正攻法で応える１冊。450社以上のコンサルティング実績から導き出したという「ビジョン実現型経営計画」の進め方を手取り足取りのレベルで解説してくれている。経営計画の策定では，目先の数字・理念強調・規則集だけでは“もどき”にすぎないとして， ５年以上先を見通した数値目標・具体的戦略・人材育成計画の３本柱を求める。さらに，10年後も全社員が目指せる目標を明らかにしたうえで，現状レベルと目標レベルのギャップを埋めるのが人材育成だと位置づけ，経営戦略と連動させた評価項目の設計，戦略実行を確実に進めるためのPDCAに重ねた制度運用のノウハウを解き明かしている。類書でも指摘されがちな「経営と人事の連動」という抽象課題は本書をもってようやく具体レベルで氷解するはずだ。「ビジョン実現シート」「経営計画書」「戦略・アクションプラン」等の作成を支援するエクセルファイルが収録された付属CD-ROMも助かる。