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書評 2017.12

仕事を任せたくなる人の条件

 本書の後半には6人の社長インタビューがまとめられている。様々な窮地から危機を脱し,事業を成功に導いた各社・経営者の物語に続けて,著者による事例分析が綴られている。そこで得られた知見を基に,経営者らが「あの人に仕事を任せよう」と直感的に判断している共通項を整理したのが前半の人材登用論だ。大きくは「5つの特性」(@やり遂げる人,A忙しく見えない人,B他者・周囲から助けてもらえる人,C疑問点を「おかしい」とさりげなく指摘できる人,D組織の掟が分かる人)と「13の行動」で構成。いわゆるコンピテンシーに類似した人材像の導き方だが,実例をベースにしているので生々しく面白い。例えば,成績優秀で完璧にやり遂げられる人より,成績は優秀ではなく,もがきながらギリギリ合格してくるような人のほうを優先して登用すべきだという(窮地でも周囲を巻き込むなどして何とかするノウハウを多く蓄積しているから)。最終ページに掲載された『「仕事を任せてみたくなる人」のチェックシート』もお楽しみにどうぞ。

●著者:平松陽一  ●発行:産業能率大学出版部/2017年10月31日
●体裁:四六版/224頁  ●定価:1,800円(税別)

AI面接#採用

 科学的採用の近未来を綴った衝撃の1冊。ベテラン担当者の勘に頼った採用がすでに限界である事情は,多くの方が気づいていると推察されるが,本書にはその先の現実が描かれている。実際,著者らはAIを活用した面接アプリを開発済みで,新卒採用では,応募学生たちが各自のスマホ相手に面接に挑む運用が始まっているという。全国一律,24時間対応,質問項目も判断基準も漏れなくブレない意味は大きい。地方学生が不利にならず,面接会場の準備も不要,一般社員の通常業務も妨げない。想定されるAI面接は,「7つの質問項目」(バイタリティ,イニシアティブ,対人影響力,柔軟性,感受性,自主独立,計画力)と「4つの観察項目」(インパクト,理解力,表現力,ストレス耐性)で構成され,1人あたり60分〜 90分をかける。ただし,AIが担うのは1次面接まで。2次面接以降,コミュニケーションを図り,入社を動機づけていくのは「人」の役割だと推奨されている。どうやら,AIを敵視したり懐疑的に見たりする段階は過ぎているようだ。

●著者:山ア俊明  ●発行:東京堂出版/2017年11月5日
●体裁:四六版/191頁  ●定価:1,400円(税別)

同一労働同一賃金で,給料の上がる人・下がる人

 「同一労働同一賃金」が制度化されると何が起きるのかを多角的に分析した1冊。法制化は主に企業内での格差是正に留まり,コース別運用の例外も認められるだろうと現実的な動きを押さえる一方,今までの人事の仕組みが崩壊するインパクトも内包されていると著者は指摘する。つまり,「正規・非正規」「男性・女性」「独身・家族持ち」「若手・中高年」「現役・定年後」「親会社・子会社」といった格差は解消に向かうとの見立てだ。解説項目ごとにまとめられた「結論」では,「中高年男性正社員の給料は下がる」「パート・アルバイトの給料は上がる」といった歯切れのいい断定のほか,「若手社員の給料は微増か横ばい」「管理職の給料は本来上がるべきだが,実際には横ばい」といった微妙な表現も含まれる。そのもどかしさに応えるように「結局,どうしたらいいの?」と題された最終章では,立場に応じた働き方のアドバイスも整理している。まもなく到来する変化は,人事部門・勤労者の両者にスリリングな選択を迫る可能性がありそうだ。

●著者:山口俊一  ●発行:中央経済社/2017年11月10日
●体裁:四六版/212頁  ●定価:1,600円(税別)

今さら聞けない人事制度の基礎48話

 入社4年目で初めて人事部に配属となったY君と,入社15年目で人事部10年のS係長の会話を手がかりに,人事制度の基本・応用を解説した入門書。大きく5つの章(@等級制度,A報酬制度,B評価制度,C退職金制度・定年後の雇用,Dその他,人事制度にかかわるテーマ)に分類され,読破すると人事の仕組みが一通り理解できる構成になっている。「等級って何ですか」といった素朴な質問を契機に「昇進」と「昇格」の意味の違いまでを掘り下げていくような丁寧な記述で一貫しているのは,著者の経験と力量の賜だろう。給料はどうしたら上がるのか,どれだけ上がるのかといった一般若手社員レベルのシンプルな問いは,改めて制度設計の本質を説き起こすニーズを突いているようにも思われる。人事分野に身を置く読者なら48話はあっという間に読めそうだが,配属前後のテキスト代わりに,あるいは日頃の知識確認に適した分かりやすいコンテンツの存在はありがたい。4ヵ所に挿入されたコラムもウンチク(波平と島耕作の比較など)を楽しめる。

●著者:吉岡利之  ●発行:日本生産性本部/2017年11月15日
●体裁:四六版/188頁  ●定価:1,500円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki