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書評 2018.09

指示待ち部下が自ら考え動き出す!

 「指示待ち」を含め“やる気を感じない”“何回言っても分からない”残念なメンバーに悩むリーダーは多いと推察されるが,そこに「指示だけ」という上司の側の問題はないかと著者は疑う。齟齬の主因は,マネジメント能力の有無ではなく,メンバーとの関わり方にあり,改善の余地は大きいと指摘。コミュニケーションスタイルを見直し,信頼関係を築いて後に「やらされ感」と「技術不足・経験不足」の2つを切り分けて手を打てば,指示待ちの問題は解消すると,かみ砕いた解説を続ける。やらされ感では5つの「行動イノベーション・トーク」を提案,技術不足・経験不足では「成長の5ステップ」を整理し,少しの知識と順番通りの実践で職場の状況が劇的に変わる手法を公開している。自転車に乗れない段階で「乗れ」と指示しても行動は変えられず,泳ぎ方を知らない子供をプールに突き落としても水泳の学習にはならないと例示し,作業とスキルの違い,手順の重要性を解き明かす。シンプルにして効果の期待できそうな要注目のメソッドだ。

●著者:大平信孝  ●発行:かんき出版/2018年7月23日
●体裁:四六版/192頁  ●定価:1,400円(税別)

残業の9割はいらない

 ヤフーの人事改革を牽引してきた著者が,“働き方の哲学”を開陳した1 冊。「えらべる勤務制度(週休3日制)」「どこでもオフィス(テレワーク制)」「フリーアドレス制」「新幹線通勤」「サバティカル休暇」など話題の人事制度が,実は一貫した価値観の反映であったと読者は改めて気づかされるだろう。その価値観とは「企業として勝つため」「社員が幸せになるため」の2点に集約され,“正しい成果主義”を志向する厳しさと不可分の戦略性が読み取れる。働き方の自由度を高めることは,しっかり成果を出せという社員へのメッセージであり,長時間がんばるだけの残業には意味がないというのが書名の真意でもあるようだ。人事部門には自社に合った正しい成果主義の徹底を,管理者には部下の仕事ぶりをよく見る役割を,社員には自律してアウトカム(成果)を出すよう,促す。人生100年時代,働き方改革,組織と個人の関係といった広い視野からの整理に加え,著者自身のキャリア,経営幹部たちの勉強会の様子などの逸話も読みどころだ。

●著者:本間浩輔  ●発行:光文社/2018年7月30日
●体裁:新書版/209頁  ●定価:780円(税別)

女性の視点で見直す人材育成

 計7,000名に及ぶ大規模なリサーチをベースに女性の働き方を探った1冊。ただし「女性活躍推進」という6文字を著者らは懐疑的に捉え「女性管理職を増やそう」という短絡的な話ではないと釘を刺す。そのうえで,@スタッフ期,Aリーダー期,Bマネジャー期,Cワーママ期,という4つのトランジションに分類して考察を進め,20のTOPICを立てて,考える視点を提供している。働き続けたい女性が8 割を超えながら,「今の会社で」となると6割台に減少する衝撃的な結果に象徴されるように職場にはギャップがあるとし,ロールモデルの個人的体験で訴求しても,かみ合わないと危惧。個人の努力・資質ではなく構造要因に着目し“職場を育てる”発想を導き出している。仕事を割り振る権限のないワーママが「誰か変わってください」とは言えない現実を捉え,全員の負荷を見える化し,自発的に助け合い行動の起きる状態をベストな姿として描く。7人のイラストキャラクターが“先生”にツッコミを入れていく掛け合いも楽しく,理解を助けてくれそう。

●著者:中原淳/トーマツ イノベーション  ●発行:ダイヤモンド社/2018年8月1日
●体裁:四六版/216頁  ●定価:2,000円(税別)

日本一働きやすい会計事務所

 創業から7年,50名規模に成長した会計事務所経営者の独白だ。顧客を富裕層に絞りグローバルで大金を扱う立場だが,自らは資産家を目指す気はないと言い切る。経営の最大価値を「クライアントの満足」と「働く仲間の成長,環境作り」に定め,日々“働きやすさ”の追求には余念がない。柱は,@福利厚生,A業務内容,B報酬制度の3つ。具体的には年間休日133日(9連休以上4回),1人あたり3坪強の空間,オーダースーツ購入制度(半額補助),車通勤の容認(駐車場代補助)など。人材育成ではOff-JT年間180時間,研修費は全国平均の5.8倍という投資も惜しまない(高い定着率ゆえ可能)。また,「20%ルール」を取り入れ,主業務以外でのチャレンジも認めている(副業解禁)。人事考課では,業績・能力に加え,体調管理と集中,情報共有,メンバーのケアも評価項目に含めた独自のツールを作り込んでいる。成果要素を加味した上限のない「ドリーム給与体系」も魅力的で,家族主義と成果主義の融合を目指す現在進行形の挑戦が綴られている。

●著者:芦田敏之  ●発行:クロスメディア・パブリッシング/2018年8月11日
●体裁:四六版/200頁  ●定価:1,380円(税別)

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki